ともちゃん の日常18


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2000年12月以前(ともちゃんの日常17へ)

2001年1月

3日(水)
「怪しい小学生」

14日(日)
「歯科治療」

2001年3月

17日(土)
「冬ごもり(1)電話が気になる」

17日(土)
「冬ごもり(2)歯科治療」

27日(火)
「春が来た」

2001年4月

13日(金)
「ミルクを吐く」

16日(月)
「最上級生になったよ」

2001年5月

3日(木)
「車を買ったよ」

6日(日)
「目に青葉」

2001年6月

3日(日)
「宿泊学習に向けて」

2001年6月9日以降(ともちゃんの日常19へ)


2001年1月3日(水)

2001年、幸先の良いスタートです。昨年末から痰の絡みがひどく、ずっと家の中で過していたともちゃんでしたが、元旦は両親と少し散歩に出ることができました。今年のお正月は特に寒かったので、ともちゃんが風邪を引いてはいけないと、重装備で出かけました。車椅子ごとともちゃんを包む防寒カバーはもちろんのこと、防寒カバーから唯一出ているともちゃんの顔も大きなマスクと毛糸の帽子で覆い、出ている部分はわずかに目だけという怪しい格好です。

 久しぶりのお出かけなので、ともちゃんは最初は緊張して強ばった表情をしていました。あまりの外気の寒さにも驚いたかもしれません。この日は15分程度、マンションの周りをぐるりとまわって、夏に地蔵盆を行う近くのお地蔵さんにお参りをして帰りました。お地蔵さんの前に着く頃には、ともちゃんの表情は和らいで、笑顔も見られるようになりました。やっぱりお出かけ大好きなともちゃんです。

 翌日、ともちゃんは朝からゴキゲンでよく笑い、よく声を出しています。お出かけが楽しみなようです。マイペースで朝食を済ませた後、今度は少し遠くの氏神さんまで、車椅子で30分強の散歩に出かけました。相変わらずの怪しい小学生のいでたちで出かけたともちゃんは、大きなマスクの下で、大きな口を開けて、道中もよく笑っていました。今年はともちゃんが元気で入院せずに過せますようにと祈って帰りました。

 元旦、2日とお出かけしたためか、3日の朝は痰の絡みが多くなっていました。吸入する酸素の流量を増やすと、ともちゃんは自分で咳き込んで痰を切ることができましたが、この日はお出かけは中止。代わりに家族で緑茶のお茶会をしました。緑茶はともちゃんも飲むことができます。水分補給として以前は口から飲んでいましたが、経管栄養になってからは鼻のチューブから飲んでいます。緑茶はビタミンCが豊富で身体にはいいのですが、ちょっと苦いのでともちゃんの好みの味ではなく、口からでは進まないのです。

 昨年末、お姉ちゃんとお母さんが、それぞれにお気に入りの湯飲みを買って、お正月は緑茶のお茶会をしようと話していました。お母さんはともちゃんを抱っこしていたのですが、ともちゃんはいつになく不機嫌な様子です。いつもなら、お姉ちゃんの声を聞くと、うれしそうにしているのに、そうではありません。後でお母さんがともちゃんに「ともちゃんも自分の湯飲みが欲しいと思っていたの?」と聞くと、ともちゃんは「おーん」と答えてくれました。

 ともちゃんが、会話の中身を理解しているかどうかは疑問ですが、ともちゃんが自分はこの話に入っていないと感じていたことは確かなようです。お母さんやお姉ちゃんが交互に「ともちゃんも湯飲み買ってあげような。どんなんがいいかなあ。」と話しかけるとうれしそうです。そういうわけで、今回のお茶会では、ともちゃんもちょっと渋い京都キティちゃんの柄の新しい湯飲みに緑茶を入れて、そこから注射器でチューブに注入しました。(今までは緑茶もキティちゃんのマグカップでした。)

 みんなが抹茶カステラを食べる代わりに、ともちゃんはヨーグルトにイチゴジャムを混ぜて口から食べました。カステラは食物アレルギーのあるともちゃんにとっては敵なのです。このところ、1日3回のミルク注入と2回の口からの食事に追われていて、ともちゃんが口からおやつを取るというのは久しぶりのことでした。

 21世紀最初のお正月をともちゃんは元気に迎えることができました。とはいっても、まだまだともちゃんの体調は不安定で、ちょっとしたことが大事につながるので、遠くにお出かけしたりしてダイナミックに遊ぶわけにはいきません。日々の生活を無事に送りながら、毎日小さな楽しみを見つけていくことの幸せを改めて感じた、平和で穏やかなお正月でした。

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2001年1月14日(水)

 昨年末、歯磨きの途中でともちゃんが歯ブラシを噛んでしまい、6歳臼歯が欠けてしまいました。慌てて、かかりつけの小児歯科の先生に診てもらいましたが、神経まで処置しなければならないC3の状態なので、ここでは治療できないとのことで、応急処置をしてもらって帰りました。

 「障害者の歯科治療は、全身麻酔をかけ、気管に挿管して人工呼吸器をつけ、気道を確保した上で行なうことが必要です。」という説明を受け、この治療が可能な病院に紹介状を書いて下さいました。この治療については以前より聞いていましたが、ともちゃんに全身麻酔をかけることが心配なお母さんは、そういうことがないようにと歯磨きを頑張っていたつもりだったので、大きなショックを受けました。

 小児歯科の先生によると、お母さんの分からないところで虫歯が進行していて、そこが割れたのだろうということでした。家で食事をした後、お母さんはともちゃんの歯磨きに30分位の時間をかけています。ともちゃんはタイミングが合わないと口を開けてくれず、歯ブラシもよく噛んでしまいます。脳の障害のために、ともちゃん自身が歯ブラシを噛んでしまったと驚くと、余計に筋肉が緊張して口が開けられなくなってしまいます(これは食事のスプーンでも同じなのですが)。

 お母さんとしては、かなりしつこく歯磨きをしているつもりです。しかし、言葉が分からないともちゃんには、健常な幼児のように「お口をアーンして。」と言って口を大きく開けさせ、口の中の隅々まできれいになったか確認しながら磨くことはできません。悔いは残りますが、仕方がないので紹介された病院に両親で説明を聞きに行くことにしました。

 どんな治療を受けるにしても、どんなことをするのか、どんなリスクがあるのか、他の治療方法にはどんなものがあるのかなどの説明を受け、こちらからの疑問や不安もすべて伝え、納得した上でともちゃんの治療を行ないたいと思います。小児歯科の先生の紹介状の他に、小児神経の主治医の先生にも、ともちゃんの障害の状態について書いていただいたものを持参しました。

 紹介された病院は、隣の市にある民間総合病院で、小児神経科にはともちゃんのかかりつけの大学病院から来られた先生がおられるということなので、その点は少し安心です。病院では歯科の麻酔医の先生が、持参した2通の手紙を読まれた上で、丁寧に応対して下さいました。

 麻酔医の先生によると障害者の歯科治療には次の3通りの方法があるそうです。

 (1)全身麻酔をかけて自発呼吸を停止させ、挿管をして人工呼吸器をつけ、呼吸管理を行ないながら歯科治療をする方法。気道は完全に確保されているので、歯科治療に使用する水を誤嚥することはない。また、眠っているので舌根沈下による気道閉塞を生じることもなく、急に動くことによる事故もない。

 (2)何もせずに押さえつけて治療を行なう方法。麻酔をかけることのリスクはないが、水を誤嚥する危険も、急に動くことによる事故の危険性もある。

 (3)(1)と(2)の中間の方法。自発呼吸を停止させる麻酔ではなく、脳波を取る時などに使う睡眠薬を注射して、眠らせて治療する方法。気道は確保していないので、誤嚥の危険はある。歯科治療でも目覚めないように、脳波測定の時より薬は多量に使う。その結果として、自発呼吸が停止する可能性もある。そうなれば挿管して(1)と同様の処置を行う。

 小児歯科の先生は(1)の方法を勧めておられたのですが、小児神経の主治医の先生は「不安定な中でギリギリのところで頑張って自発呼吸をしているともちゃんは、麻酔をかけて自発呼吸を停止させると、麻酔が覚めても完全に元の状態(自発呼吸ができる)に戻らないかもしれないというリスクがあるので、(1)の方法は賛成できない。」と書いて下さっていました。これこそ、全身麻酔をともちゃんにかけることに対して、両親が漠然と抱いていた不安なのです。

 麻酔医の先生は「(1)がダメとなると(3)の方法なのですが、薬が効きすぎると(1)と同様のリスクがあるし、誤嚥の危険性もあります。少し時間を貰って、小児科部長の先生(小児神経医)と相談した上で、またお話ししましょう。」とおっしゃいました。そして、「最終的には最適な治療法を聞いてもらった上で、そのリスクを考慮して歯科治療を受けるかどうかをご両親が判断することになります。」ともおっしゃいました。

 正直なところ、ともちゃんは歯で咀嚼して食べているわけではないので(舌でペースト食を食道に送っているだけ)、痛みがなければリスクを背負ってまで治療したくありません。実際、障害者の方で歯科治療を受けずに歯が根だけになるまで放っておいて、既に痛みもない状態になっている方も多いそうです。けれども、誰もがみな痛みがないままに、虫歯が進行するわけではありません。

 両親は、ともちゃんの治療に関しては以前から「命が1番、痛くないのが2番。それ以上のことは1番2番が万全のときだけ。」という考えで臨んできました。今後の歯科治療についてもこの考えに従って、先生ともよく相談した上で納得のいく治療を受けたいと思います。

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2001年3月17日(土)

 お正月は元気にスタートを切ったともちゃんでしたが、3学期が始まってからは週に1度程度の登校が続いていました。1月の後半からはこのペースも保てなくなって、ずっとお休みしています。痰が絡んで、頻繁な吸引や酸素吸入が必要なのです。幸いにして、入院するほどひどくなることはありません。酸素濃縮器、吸引器、吸入器の助けを借りながら、食べることと寝ることを中心にして、自宅でゆっくりと冬ごもりです。

 冬ごもり中のともちゃんが気になっているのは電話です。お母さんは毎朝養護学校に電話をかけて、前日のともちゃんの様子を先生に話して、今日もお休みしますと伝えることにしています。ともちゃんが比較的元気なときは、お母さんが学校に電話をかけて先生と話していると、「あー、ああー」と大きな声を出します。お父さんに言わせると、ともちゃんは「私は学校に行きたいのに、お母さんに家に監禁されているんだよ。先生、助けに来てー。」と言っているのだそうです。

 逆に、ともちゃんの体調が悪くしんどそうな時には、学校に電話をかけていてもともちゃんは黙っています。それで、学校の先生は、朝の電話でともちゃんの声が聞こえるかどうかを、ともちゃんの体調の目安の一つと考えて、「ともちゃんの声が聞こえるから、元気になってきたねえ。」などとおっしゃって下さいます。本当のところ、ともちゃんが何を話しているのかは不明ですが、自分もお母さんの電話の会話に入れて欲しいことは確かなようです。

 ある時、お母さんがお祖母ちゃんに電話をかけていると、ともちゃんが大声で「あーあー」とお話を始めました。電話の相手がお祖母ちゃんなので、「ともちゃんもお話してみ。」と、ともちゃんの耳と口に受話器をあてがいました。すると、ともちゃんは、お祖母ちゃんの「ともちゃーん、元気にしているか。」という声を聞きながら「あーああー、おおーおー」とたくさん、たくさんお話をしました。ともちゃんのお話の合間に手短に用件をすませたお母さんが「もう切るで。ええか。」と言って、受話器を置くと、ともちゃんは、それっきり、ぷっつりとお話するのを止めました。ともちゃんが電話でお話ししたのは始めてです。

 今までも、お母さんがお祖母ちゃんに電話をかけている時にともちゃんがお話を始めると、何度もともちゃんに受話器をあてがって、お祖母ちゃんの声を聞かせてあげました。けれども、こういう場合はいつも決って、ともちゃんが「あれ、あれれ」という顔つきになって、お話するのを止めてしまいました。ここにはいないはずのお祖母ちゃんの声が、急に聞こえたのが不思議だったのでしょうか。それとも、ともちゃんは電話をしているお母さんに対して話をしているつもりだったのでしょうか。

 お母さんがあるお店に電話をかけていた時のことです。やはり、ともちゃんが大きな声を出し始めました。お母さんは事務的な電話なので、少し困ったなと思いながらも、ともちゃんの声の中から相手の店員さんの声を聞き取って、用件を済ませました。ともちゃんに「ともちゃんが大きな声を出すから、相手のおっちゃん、びっくりしていたやろうな。」と話しながら、お母さんは一つの実験を思いつきました。

 お母さんが電話をかけるふりをして、今の電話と全く同じセリフを一人でしゃべるのです。ともちゃんはどんな反応を示すでしょうか。結果は、ともちゃんは全くしゃべらず、知らん顔をしていました。お母さんの演技がへたくそだったのか、ともちゃんが先ほどのおしゃべりで満足してしまったのか、それとも、本当に電話しているかどうかがともちゃんには雰囲気でちゃんと分るのでしょうか。ともちゃんと電話、これからも注目です。

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2001年3月17日(土)

 ともちゃんが冬ごもりをしている間に、1月に受診したK病院の口腔外科の麻酔医の先生から連絡がありました。ともちゃんの主治医の先生ともメールで相談をして下さって、治療方針が一応決定したということでした。

 口腔外科の先生によると、主治医の先生が心配されているのは挿管による肺炎だそうです。ともちゃんは痰や分泌物が多いのですが、分泌物が多いと麻酔をかけて人工呼吸器をつなぐために気道に挿管した際に、肺炎を起しやすいということです。それで、ともちゃんの場合、特にこの季節は挿管することを避けて欲しいという意見だったそうです。

 挿管をしない治療となれば、脳波をとる時のように眠らせるという方法があるのですが、この方法では気道を確保していないために、虫歯治療で用いる水を誤嚥する危険性があります。口腔外科の先生の立場からすると、ともちゃんの場合、気道を確保しないで歯科治療することは避けたいという意見です。

 主治医の先生の立場からは挿管を避けたい、口腔外科の先生の立場からは挿管しない治療は避けたいということなので、少なくともこの時期は治療をせずにこのまま様子を見ることに決定したとのことでした。そして、ともちゃんの体調が良くなる5月頃に再び受診して、どのようにするかを考えましょうということです。

 ともちゃんの両親もその通りだと思い、この方針に賛成しました。今の時期は、ともちゃんの痰の状態を少しでもよくすることで精一杯で、歯科治療を考えるだけの余力はありません。そして、主治医の先生と口腔外科の先生が、それぞれの立場でともちゃんの状態を考えて、治療方針を話し合って下さったことはとてもありがたいことだと思います。

 後はともちゃんの虫歯が痛まないように祈るだけです。人によっては、さほど痛むことなく虫歯が進行して、自然に歯が朽ちていくとも聞きました。家族の中では、お母さんだけは小さい頃から虫歯が痛んで悩まされました。お父さんもお姉ちゃんも虫歯はありますが、それで歯が痛んだことはありません。ともちゃんの歯が痛むようであれば、痛み止めの薬を出しますと言われていますが、どうか痛まずに済みますように。

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2001年3月27日(火)

長い冬ごもり生活をしていたともちゃんにも、やっと春が訪れました。3月19日、2ヶ月ぶりのお散歩です。車椅子に乗って、お母さんと自宅近くの淀川の堤防まで行きました。久しぶりの外界はすっかり春の陽気で、車椅子の防寒カバーのファスナーを2ヶ月前と同じように一番上まで上げていたら、ともちゃんは少し暑く感じていたようです。

 ともちゃんは、車椅子の振動を楽しみ、太陽の光の眩しさを感じて目を細めていました。堤防の上から川を眺めながら、防寒カバーのファスナーを全開にして風を通すと、心地よさそうにしていました。30分程度でしたが、ともちゃんの笑顔がたくさん見られたお散歩でした。

 痰の分泌が多くなっていた間、ともちゃんは自宅で酸素吸入をしながら、痰を吸引していました。この状況では、お母さんは自分一人でともちゃんを連れてタクシーで通院することさえも、不安でなかなか実行できませんでした。タクシーの中で、急に吸引が必要になったら、あるいはともちゃんの状態が急変したらどうしようと思うからです。そんな頃を思うと、ともちゃんと2人で散歩に出られたことはとてもうれしいことです。

 この2日後、ともちゃんは念願の学校へも行くことができました。マイペースで朝の予定を済ませた後、タクシーで登校して体重測定とミルクの注入を行い、タクシーで帰宅するという短時間の登校でしたが、ともちゃんは学校の雰囲気に大喜びでした。減っているのではないかと心配していた体重も、経管栄養のおかげて18.7kgとわずかながら増加していました。

 さあ、これからぼつぼつと学校生活を楽しむぞと、ともちゃんは思っていたことでしょう。けれども、学校は春休みに入ってしまいました。終業式をお休みしたともちゃんに、今日は先生が通知票と「春休みのくらし」を持って家庭訪問に来て下さるとのことです。お母さんは、長期の籠城生活でともちゃんの居場所の周りに山積みされたマンガ、雑誌、本など(お母さんがともちゃんを抱っこしながら見ていたもの)を移動して、朝から少し緊張して先生が来られるのを待っていました。

 ともちゃんは、朝からお姉ちゃんやお父さんに、「今日は学校の先生が来てくれるよ。」と何度も言われていたので、いつもと違う雰囲気を感じていたようです。先生が来られて、声を聞いたともちゃんは大喜び。興奮して声をだしてニコニコしています。興奮しすぎたせいか、後半は先生に抱っこされてボーッと眠そうな表情も見せていました。先生には元気なともちゃんの姿だけではなく、家庭で用いている吸入器やミルトン消毒も見てもらいました。

 5年生の3学期、ともちゃんの出席日数は4日間。この1年間の出欠は55勝(出席日数)、164敗(欠席日数)でした。けれども、一昨年も昨年も、ともちゃんは3学期に入院していましたが、今年は入院せずに過すことができました。来年も無理はせず、でも登校やお散歩が珍しいのもではなくなればいいなと思っています。

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2001年4月13日(金)

 痰の絡みがひどく、口から食事が摂れない時でも、ともちゃんは経管栄養のお陰で大事に至ることなく過してきました。そんなともちゃんに新たな「敵」が現れました。経管でミルクを注入している最中に心拍数が急激に高くなり、ウェッとえずいて鮮やかな山吹色の胃液とともにミルクを戻してしまうということが、毎日のように起こるようになったのです。

 4月2日、夕方のミルク注入をしていると、パルスオキシメータで常時モニターしている心拍数が130台まで急激に増加したので、注入を途中で止めました。ともちゃんは、ウェッとえずきましたが、この時は嘔吐はせず、目を閉じてウトウトし始めました。1時間近く待って、心拍数が落着き、ともちゃんが目覚めてから注入を再開しましたが、ミルクが再び胃に入ると心拍数も増加したので、注入は途中で諦めることにしました。しかし、この後、ともちゃんは黄色にチョコレート色(胃からの出血)の混じった胃液を吐きました。

 4月3日も2日と同じように、夕方のミルク注入時に心拍数が高くなり、注入を中止しました。心拍数が落着いてから、夕方の分の薬だけを注入するために胃液の吸い上げ確認(鼻から通したチューブが胃に届いているかを確認するために、注入前には毎回胃液の吸い上げ確認をします)を行いましたが、いつもの透明な胃液とは異なり、前日嘔吐した時のような鮮やかな山吹色の胃液が上がりました。

 今までも、ともちゃんが眠い時にミルクの注入を行なって、このように嘔吐したことがありました。今回も夕方に眠くなることが偶然続いているのかと思っていたのですが、翌4日は昼のミルク注入時に嘔吐があり、眠いのが原因でないことが分りました。さらに、夕方のミルク注入時には、注入を始めると普段は便秘気味のともちゃんが下痢をしました。その様子から両親は胃腸の具合が悪く消化不良を起しているのかもしれないと思いました。その後の鼻腔チューブ吸い上げで、この日も血液が上がっていました。

 ともちゃんにお粥を食べさせる時は、眠そうなら寝かせてから食事をするというように、誤嚥しないように、痰が絡まないようにと、ともちゃんの状態に神経を使っていました。一方、ミルクの注入はともちゃんの状態に関係なく、安心して行うことができました。しかし、もうそういうわけにはいきません。消化が良いように、ともちゃんをずっと抱っこしていて、眠そうではなく、体調のよさそうな時間を見計らって、ミルクの注入を行わなければなりません。注入中も、心拍数を始めともちゃんの全身状態に常に気を配り、少しでも気になると注入を中断して様子を見ています。

 このところ、痰の絡みがひどくなってきていて、ともちゃんがお粥を口から食べようとすると、痰と絡んで咳き込んでなかなか進みません。本来、こういう場合は無理強いをせずに、口から食べることは諦めて、ミルクの注入だけで乗切りたいところなのですが、今はミルクの注入も安心して行うことができず、お母さんの心配はどんどん増していきます。幸いにも、嘔吐するのはミルクだけで、薬や水分を注入しても、嘔吐はしていません。お母さんはともちゃんが脱水症状にならないように、電解質補給のために以前より処方されていたソリタT顆粒3号をせっせと注入しました。

 5日の午前中、病院を受診しました。この日も朝のミルク注入時に心拍数が急激に速くなり、吸い上げで鮮やかな黄色の胃液が上がっていました。診察では腸が動く音がしていることと嘔吐するのはミルクに限られていることから腸閉塞などではなく、炎症反応もマイナスなので胃腸にくる風邪でもないとのことでした。ミルクだけを嘔吐することから、ミルクアレルギーを起しているのかもしれないということで、採血をして検査に出しました。結果が出るのは約10日後です。

 ともちゃんは数多くの食物アレルギーを持っていますが、今までの血液検査ではミルクのアレルギーは出ていません。しかし、一昨年、牛乳を飲んでいて急に動脈血中飽和酸素濃度が下がったことがあります。その時の血液検査ではミルクアレルギーではなかったのですが、用心のため以後牛乳は飲んでいません。注入用のミルクも、大事をとってミルクアレルギー児用のもの(森永乳業のMA1)を使っていました。今回さらに厳しくアレルゲンをカットしたミルクアレルギー児用粉ミルク(明治乳業のエレメンタリフォーミュラ)に変えて、今まで通り何とか注入を行いながら、検査結果が出るのを待つことになりました。

 そして本日検査結果が出て、ミルクアレルギーはないことが確認されました。新しいミルクに変えてからも、注入時には心拍数が高くなったり、ウェッとえずいたり、山吹色の胃液が上がったりと同様の現象が起こっていました。しかし、土曜日に鼻腔から胃まで通したチューブを交換してから、この現象はぴたりとおさまりました。それまで入っていたチューブは、いつもより2~3cm深く入っていました。今回の嘔吐騒動は、ともちゃんの胃腸の状態、胃から腸へのねじれ具合、チューブの先端の位置が影響し合って生じたものではないかという診断でした。

 何が起こるかわからないともちゃんですが、今回もはらはらしました。それにしても、ミルクアレルギーがなくてお母さんはほっとしています。アレルギーかもしれないといわれた時には、ミルクがだめなら別に注入するものを探さないといけないと思い、重湯はどうか、野菜スープはどうかとお母さんは真剣に考えていたのです。

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2001年4月16日(月)

 ミルクの嘔吐の一件もあって、例年のごとく友達よりも1週間遅れて、ともちゃんの新学期がスタートしました。早いもので、もう6年生、最上級生です。ともちゃんの在籍する(知的障害と身体障害の)重複学級、たんぽぽ組は1年生を迎えて8名になりました。

 ともちゃん達、たんぽぽ組の5、6年生は、生活や音楽の授業は知的障害児の高学年クラスと一緒に受けるのですが、高学年クラスに5年生のお友達が転校してきました。今はまだ学校でミルクを注入するだけでともちゃんは早退してしまうので、一緒に授業を受けることはできませんが、早く新しいお友達とも仲良くなりたいものです。

 スクールバスも今の時期は新入生で満杯のはずです。自主通学ができる高等部のお兄さんやお姉さんは、学校に慣れてくるとスクールバスから路線バスに変更になって、少しずつバスのメンバーが減っていくのです。今のともちゃんのゆっくりペースの朝食ではスクールバスに間に合わないので、今日はタクシーで登校しました。でも、これからは新年度ならではのにぎやかなバスの雰囲気も楽しみです。

 長い間の体調不調で自宅で過すことが当り前になっていたともちゃんなので、遅刻・早退での短時間の登校でも、新学期をスタートできたことはうれしいことです。学校に行くと、あんなこともこんなこともしたいねと欲が出ますが、ゆっくりあせらずに生活の幅を広げていければいいなあと思っています。まずは、ともちゃんが登校することが当り前の生活に戻したいものです。

 そして、ともちゃんにとってうれしいニュースもありました。今年度、学校にパルスオキシメータが常備されたのです。ともちゃんは、自宅ではずっとパルスオキシメータで心拍数と動脈血中飽和酸素濃度をモニターしながら、体調を管理しています。今まで、学校では、ミルク注入時などには聴診器で心拍音を聞いて心拍数を把握して下さっていましたが、血液中の酸素が十分に足りているのかは、ともちゃんの顔色を見て判断するしかありませんでした。

 余力のないともちゃんは、顔色が悪くなる前に血中飽和酸素濃度の値が低下した時点で、酸素吸入や吸引などの処置を行なってもらえれば、危険な状態を避けることができます。そういう意味で、学校にパルスオキシメータが備わったことは、随分と心強い思いがします。登校したともちゃんは、さっそくパルスオキシメータのセンサーを指につけてみてもらっていました。

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2001年5月3日(木)

 ともちゃんのお父さんが、「ともちゃんの車椅子を折りたたまなくても載せられる車を買おう。」と言出しました。

 現在ともちゃん一家が乗っている車はハッチバックのファミリアで、荷物スペースはともちゃんの車椅子を折りたたんでうまく入れると、ぴったり一杯の大きさです。トランク内にLPガスボンベを搭載しているタクシーなどは、ともちゃんの車椅子を積むとトランクをきちんと閉めることができず、ゴムで開かないようにしてもらっています。この車も、ともちゃんの車椅子がもう一回り大きくなると、ハッチドアが閉まらなくなるでしょう。

 座位のとれないともちゃんが使う車椅子は、病院などでよく見かけるタイプの車椅子とは違い、リクライニングできるシートにともちゃんの身体を固定するための付属品がたくさん取付けられています。ともちゃんとお出かけする時は、車椅子の全ての付属品を外したり付けたりで、車から出し入れする時間と手間がかかっていました。車椅子をそのまま車に積めたら、どんなに便利でしょう。ファミリアの7年目の車検の案内ハガキを見て、ともちゃんのお出かけシーズンを前にお父さんが買替えを決断したのです。

 そこで、この連休中は近くの自動車販売店を訪ねて、3列シートのミニバンタイプの車にともちゃんの車椅子が折りたたまずに乗せられるかどうか実際に試してみることにしました。トヨタのガイアは3列目シートを折りたたんでも座面は下がらず、背が高いともちゃんの車椅子は天井につかえて、そのまま乗せることはできませんでした。エスティマなら折りたたんだ3列目シートが前にスライドするので、車椅子は問題なく載せられるのですが、エンジンが2.4L以上になってしまいます。ホンダのスッテプワゴンでは3列目シートを横に跳ね上げる形式なので、後部の空きスペースは狭くなってしまいます。

 3列目シートの収納形式から考えると、マツダのMPVが一番使いやすいようです。折りたたんだ3列目シートを床下の掘り下げた部分に収納するので、床も高くならず、後部の空間がそのまま使えるからです。実際に車椅子を乗せてみましたが、ともちゃんの背が高くて、しかも長い(リクライニングで使用しているので)車椅子をそのまま乗せても、まだ空きスペースがあります。MPVに決定です。色はお姉ちゃんの希望でサンライトシルバーになりました。

 ともちゃんもお母さんに抱っこされて、止っているMPVの座席に座ってみました。ともちゃんは、不思議そうにしながらも満足げです。その後、お父さんが運転して試乗してみることになったのですが、ともちゃんの代わりに車椅子だけを車に乗せて、眠くなったともちゃんは店の中でお母さんの抱っこで眠っていました。

 家に帰ったともちゃんは、さっそく、お父さんと夏休みのお出かけの相談をしていました。今年の夏は、新しい車に吸引器や酸素ボンベもゆったりと積んで、少し遠くまでお出かけができますように。お出かけができるくらいともちゃんが元気でありますように。夏が楽しみです。

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2001年5月6日(日)

ゴールデンウィークに入る頃になると、例年ともちゃんの体調は落着いてきます。ともちゃんも、家の周りではなくて、少し遠くにお出かけしたくなります。久しぶりに家族で新緑の公園に散歩に出かけました。連休中は大阪市内の道路の方が郊外に向う道路よりも空いているはずというお父さんの予想に従って、4日は大阪城公園に行きました。

 天気も良く、自宅から駐車場までの道のりも、ともちゃんはニコニコと嬉しそうにしています。新車選びに自動車販売店に行くのもいいけれど、やっぱりともちゃんの散歩を目的にしたお出かけが一番のようです。大阪城公園で目指すは市民の森です。ともちゃんの朝食が終ってからすぐに出かけたのですが、公園はすでにたくさんの人出で賑やかです。

 車椅子に乗って散歩を始めたともちゃんは、明るい日差しと活気ある雰囲気を感じて、昨年の夏休み以来のお出かけを実感しているようです。車椅子の振動を身体で感じて、笑顔があふれます。中でも、ともちゃんの一番のお気に入りは、新緑眩しい木漏れ日の下を散歩することです。ともちゃんはキョロキョロと上を向いて笑っています。

 直射日光が暑く感じられるので日陰は心地よく、その上見上げればキラキラと輝く緑が視界に入ってきます。脳性麻痺のために、常に身体を反らし気味のともちゃんは、車椅子に乗っていても、上を見上げている状態です。ともちゃんは脳性の弱視だと診断されていますが、明らかに光の明暗は分っています。ですから、ともちゃんには木漏れ日の下の散歩がとても楽しいのでしょう。

 ともちゃんは、新緑の他にもつつじの花を見たり、天守閣を眺めたり、劇団の人たちが練習する和太鼓の音を聞いたりしながら、散歩コースをぐるりと一周しました。駐車場に帰って、車の中でミルクの注入をしました。屋外でのミルクの注入は9ヶ月ぶりのことです。お母さんがともちゃんを抱っこして床にすわる(ミルクをともちゃんの胃の中に経管で送り込むためには、ミルクとともちゃんの高低差が必要になるので)と窮屈なのですが、今の狭い車の中での注入はこの連休が最後になることでしょう。

 お出かけをしたともちゃんはごきげんで満足げでした。ともちゃんが満足なら、家族のみんなも満足です。というわけで、中1日休養日を設けて、6日は長居公園に行きました。植物園は色とりどりの花がきれいに咲いていました。でも、ともちゃんは4日の疲れが取りきれていないのか、4日ほどの元気はなく、ともちゃんにとっては「お出かけもボチボチ」ということを再認識させられました。

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2001年6月3日(日)

 今年も6月12日、13日と宿泊学習があります。ともちゃんの養護学校からスクールバスで1時間程度のところにある「生駒ふれあいセンター」という施設で、5、6年生がお泊りをします。ふれあいセンターは生駒山麓公園の中にあって、散策をしたり、大型遊具で遊んだりすることができます。また、室内プールもあって、元気なお友達はプール遊びも予定されています。

 2年前、ともちゃんが4年生になった時から、宿泊学習の行先が生駒ふれあいセンターになりました。4年生の夏休みには、5、6年生になった時に備えて、下見を兼ねて生駒山麓公園に散歩に行ったり、ふれあいセンターのプールに入ったりしました。昨年の宿泊学習は、長い入院生活の後で、まだ「お泊り」は無理なので、「日帰り」のともちゃん専用プランを立ててもらいました。けれども、当日の朝のけいれん発作で、結局は残念ながら不参加となってしまいました。

 今年の宿泊に向けて、多くの先生方がともちゃんの医療的ケア(鼻から胃まで通したチューブから栄養を注入することや、痰を吸引することなど)を勉強するために、ともちゃんの病院(小児神経外来)受診に一緒に来て下さいました。今までもクラスの先生方に一緒に来ていただいたことはあるのですが、今年は知的障害児の5、6年クラスの担任の先生も含めて、宿泊に付き添って下さる先生が全員来て下さいました。そして、主治医の先生も忙しい時間を割いて、何度も説明して下さいました。

 大変うれしいことです。今回来て下さった先生方全員にすぐにともちゃんに対する医療的ケアをお任せできるわけではありません。しかし、今までともちゃんのような障害児のことを知らなかった先生が、少しでもともちゃんの状態や医療的ケアの内容を理解しようとして下さることはありがたいことす。そして、ともちゃんを初めとして、様々な医療的ケアの必要な子供の事例を積み重ね、養護学校全体の知識として蓄えていくことで、医療的ケアの必要な重い障害のある子供がより安心して通える学校になっていくでしょう。

 さて、肝心のともちゃんですが、ゴールデンウィーク明けから体調がもうひとつ良くありません。以前に比べて疲れやすく、1日の午前中だけ登校しても、元の状態に回復するのに1週間が必要です。疲れたともちゃんは1日中ウトウトと眠たくなって、食事も進みません。こういう状態のときは、登校などの活動は控え、ともちゃんのペースで眠い時はいつでも寝かせ、ゆっくりと食事時間を設けて、食べることと寝ることだけに重点を置いて過しています。

 その上、例年なら季節的に軽減されているはずの痰の絡みも多くて、このところはずっと登校できていません。吸引時に吸引カテーテルで口蓋を刺激して、ともちゃんにゲホッとうまく咳き込ませることで、胸の奥にある痰を吸引しなければ、血液中の酸素濃度が下がってしまいます。この吸引カテーテルで刺激する方法は、嘔吐などの危険を伴うので先生方には行なってもらえず、学校で必要な場合にはお母さんが担当しています。

 ともちゃんの不調について、病院で血液検査をしてもらったのですが、これには異常はありませんでした。明らかな「病気」ではなくても、ともちゃんのような体力のない重症心身障害児にとって、体調不調のときに無理をすることは大変な危険を伴います。冷静に判断して、今のともちゃんの状態では、「宿泊」することは体力的に不可能でしょう。お母さんとお父さんは相談して、学校に今年もともちゃんの「日帰り」プランを立ててもらえるようにお願いしました。

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