ともちゃん の日常28


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2004年5月2日以前(ともちゃんの日常27へ)

2004年5月

3日(月)
「とっても遠くの百貨店」

5日(水)
「矢田寺」

19日(水)
「修学旅行」

29日(土)
「チューチューエキスポキティ」

2004年6月

13日(日)
「葛城山麓公園」

20日(日)
「南紀みなべ」

2004年7月

3日(土)
「ひまわりの丘公園」

18日(日)
「橿原神宮」

25日(日)
「南光町ひまわり祭」

29日(木)
「夏休みでもまだ登校」

2004年8月以降(ともちゃんの日常29へ)


2004年5月3日(月)

連休もたけなわ、今日もともちゃんはお出かけしました。連休中も絶対に渋滞しないとお父さんが太鼓判を押す高速道路、車はどんどん走ります。長いトンネルに入りました。ともちゃんにはおなじみのオレンジ色のライトが輝いています。ともちゃんを抱っこしているお母さんは、反対車線の側壁に次々と現れては通過ぎていく「非常口まで右に何百メートル、左に何百メートル」と書かれた文字を眺めています。

 心配性のお母さんは、この長いトンネルを通る時はいつも事故のないことを祈りながら、何かあった時には25キロになったともちゃんを抱えて逃げなければならないと強く心に刻んでいます。幸い無事にトンネルを抜けて、さらにもう一つ短いトンネルを抜けました。お父さんが何か言いましたが、車はさらに進んで急激に速度を落しました。

 旧の有料道路(今は無料)との合流地点に差掛かるので、この地点ではいつも渋滞しています。ゾロゾロと前後の車に挟まれたまま流れに従って私鉄の駅前に出ました。ともちゃんが以前に泊ったことのある旅館の前を通り、しばらくは市内循環の路線バスの後ろを走って、小さな街の南東の外れに出ました。

 このあたりは「近くの田舎」も田舎、かなりの田舎です。里山の裾野と畑の間に何とか片側一車線を確保した道路がついています。里山の方に入って行くと、道はいっそう狭く、畑や農家の間を曲りくねって、おまけに上り坂で対面通行です。ビニールハウスの前の道にライトバンが止っていて、そろり、そろりと横をすり抜けるのに一苦労でした。

 行着いた先の正面は長い階段。ともちゃんの車は左折して、地元の人がやっている駐車場に入りました。車椅子を下ろしてお散歩かと思っていると、お父さんは車を出て行ってしまいました。車が駐車場に入ったことを見てやって来た管理人のおばさんと話をするためです。お父さんは戻ってくると、すぐに車椅子を積込んで、エンジンをかけて、駐車場を出て行きました。

 今度は街の南側をそのまま横切って南西部に向います。ここも道路の横には畑が広がり、のんびりとした「近くの田舎」です。注意深く見ていると、ともちゃんも以前見たことのある光景が通過ぎていきます。三重の塔の方向に向って、用水路にはさまれた狭い道に進入しました。しかし、一段と狭くなる手前で分岐路を利用してUターンしました。

 長い間ドライブして、ようやくミルクの注入の時間です。幹線道路沿いのラーメン屋さんとお好み焼屋さん兼用の駐車場に車を止めて、車の中で注入を行いました。ずっとお母さんに抱っこされて車に乗りっぱなしのともちゃんは、退屈していたことでしょう。お腹が一杯になると、お母さんの抱っこと車の心地よい振動で、眠たくなってきました。

 ともちゃんがにこやかに目覚めたとき、ようやく長い長いドライブの終点が近付いていました。着いた先は百貨店。広い駐車場の片隅にある障害者用の駐車スペースに車を止めました。4時間もかかって着いたのですもの、ともちゃんは目を爛々と輝かせて、あたりをキョロキョロ見回して張切っています。「あっ知らない百貨店に来たんや。」と、ともちゃんはめずらしい店内の光景に、嬉しくて嬉しくて仕方ありません。

 車椅子を押すお父さんに、お母さんが「入って左手に進むとエレベータやから。」と声をかけています。ともちゃんは車椅子の上でニャハハハと笑顔ではしゃいでいます。7階で降りるとギャラリーでサンリオフェスティバル「ハローキティのポリスタウン」をやっていました。小さな子供たちがゲームをしていますが、丁度シナモンの撮影会も終るところで、混雑しているという程ではありません。

 「ともちゃん、キティさんのゲームしよか。」、ともちゃんは大喜びでニコニコ顔。1500円のゲームチケット綴りを買って首に掛け、ゲームをするごとに必要枚数のチケットを切取ってもらいます。ヨーヨー釣りや砂絵作り、当てもんのコーナーもありましたが、ともちゃんはメダルがもらえるゲームを選びます。最後にメダルでお買物ができるのです。

 スマートボール、ボールを信号機の穴に入れる的当て、ゆっくり回してもらうルーレットにボールを当てるルーレット、束ねられた紐の端を一本引っ張って吊り上げられた車に書かれた賞でメダルが貰える当てもんを次々にやりました。スマートボールは2回やりました。

 スマートボールのボールをはじくバーに触れさせようとしても、ボールを握らせようとしても、真剣な顔つきで筋緊張が強くなって縮こまり、硬くなってしまいます。待っている間や終った後はニコニコと楽しそうな笑顔がたくさん出ているのですから、ともちゃんはとても頑張ってゲームに挑戦しているのでしょう。車椅子でも届く位置まで前に進ませてもらったり、ちょっとおまけしてもらったりして、たくさんコインが貯りました。

 さあ、お買物に行きましょう。ともちゃんはキティちゃんの小物入れと巾着と鈴落しとキーホルダーを買いました。そのうち、ともちゃんが最初から目をつけていたのはキティちゃんの鈴落し。空気で膨ませた20cmくらいの小さなビニール製で、キティちゃんの顔の下に細長い円筒形の胴体がついています。胴体は真ん中に穴が開いた仕切りで3つの部屋に分けられていて、揺すって中に入っている4個の鈴を顔から一番下の部屋まで落して遊ぶものです。

 両親が小物入れや巾着を「これ、どうや。これにしよか。」と言う間も、ともちゃんの視線は鈴落しにいっているではありませんか。「これが欲しかってんな。」とお母さんに分ってもらうと、ヒャラヒャラ笑っていました。買った商品をキティちゃんの描かれた紙袋に大事に入れて、今日のお出かけはおしまい。家に帰ります。

 でも、「ここに来るまで4時間もかかっているよ。このままじゃ家に帰着くのが、すごく遅くなって、夜になってしまう。お昼のおかゆも晩のミルクも食べられなくて、お腹が減ってしまうよ。」とともちゃんは困っているかもしれません。でも大丈夫。なんと不思議なことに、車に乗って15分ほどでともちゃんのお家に無事帰りつきました。さて、名探偵のともちゃん、この謎は解けたかな・・・

<解答編> カーラリーでも、どこでもドアでも、何でもありません。ともちゃんが行ったのは、自宅近くのK百貨店。ともちゃんの家の最寄の私鉄駅前にあり、お母さんの毎週の買出しコースの一つです。

 ともちゃんが、知らない百貨店と間違えたのも無理はありません。ともちゃんがここに最後に来たのは6年前の夏休み、お姉ちゃん、お母さんと一緒に路線バスに乗ってやってきました。ともちゃんが入った入口もその時とは違うし、6年経てば店内のレイアウトもすっかり変っています。もっとも、ともちゃんにとって「知っている(馴染みのある)場所」の判断基準は、どのようなものなのかは分りませんが。

 両親は最初、奈良県大和郡山市の矢田寺に向うつもりでしたが、第二阪奈道路から下りそびれて、奈良市内に入ってしまいました。お母さんの思いつきで、白毫寺に行ってみようということになったのですが、階段に行当り、駐車場の管理人さんに聞いても車椅子で行くことはできないということでした。

 それならと、平地にある薬師寺を目指しましたが、カーナビに案内された場所には(他の車もどんどんやって来るのですが)「この先駐車場はありません」の張紙。仕方なく、とりあえずミルクの注入場所としてファミリーレストランの類を探したのですが、どこも11時開店でまだ店内には入れませんでした。

 「ともちゃんも眠そうやから、もう帰ろうか。まあ、こういう日もあるわ。」と諦めて、一旦は帰路に着きました。けれど、高速道路を下りた時に思い立って、「K百貨店でも行ってみよか。キティのイベントやってるし。混んでたらすぐ帰ったらええやん。」ということになったのです。キティちゃんのイベントは混んでいるからと敬遠していたのですが、思いがけずに楽しく過ごせてともちゃんは大満足。ドライバーのお父さんはご苦労さんでした。

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2004年5月5日(水)

今度こそと、今日ともちゃんは矢田寺に向います。お母さんは前回の失敗を学習して、事前に矢田寺(正式には、矢田山金剛山寺)に電話をかけて、階段はあるのか、車椅子でお参りできるのか尋ねています。普通に行くと階段があるそうですが、南側の車道からだと車椅子でも行けるということが分りました。

 行きすがら注意深く標識を探すと、分岐路で左方向を指して「車での参拝道」と書かれていました。これを見落すと大変です。畑の間の坂道を上り、「ここから先は車での進入禁止」と表示された駐車場に車を止めました。駐車場と言っても、矢田丘陵の中腹を平らに削っただけのところで、県立矢田自然公園のハイキングコースに直結しています。

 車の後部ドアを開けて、ミルクの注入を行いました。よく茂った木の枝が高いところで覆いかぶさり、昨日の雨のおかげで湿ったコケのにおいが充満していて、お寺の駐車場というよりハイキングに来たような気分です。ともちゃんも酸素吸入のために鼻に挿入しているカニューラの隙間から、山深い匂いを感じたでしょうか。ともちゃんが注入している場所から、斜面にある畑や農家を越えて、生駒山南東部の盆地が望めます。

 矢田寺までは200m位の道のりですが、コンクリートで固めた急激な上り坂がメインです。車椅子を押すお父さんに頑張ってもらいながら周りを見回すと、農家の門の中では収穫したナスを箱に詰める作業をしています。きぬさやの無人販売の店舗もありました。

 矢田寺というとアジサイの寺として有名ですが、アジサイの季節にはまだちょっと早いのでしょう。南僧坊の横の入口から境内に入ると、池の周りにツツジの花が咲いていました。本堂にお参りして、反対側の石段の方を眺めると、石畳の参道が真っ直ぐに長く続いています。本堂と北僧坊の間を通って本堂の奥に回ってみようとしましたが、大きな石を埋めた段差があって、断念しました。

 花のまだないアジサイ園の中も散歩しました。これだけのアジサイが全部咲くとさぞかし綺麗だろうなあとお母さんは少し残念に思っていますが、ともちゃんはそんなことはお構いなし。青々と鮮やかなアジサイの葉っぱの中で、ニコニコと満足そうに笑っていました。

 水分補給はもう一つの「今度こそ」で、ファミリーレストランで行いたいと思いました。山を下る途中でチラチラ見えていた空に舞う赤と黒の布は、こどもの日のこいのぼりではなくて、畑を荒らすカラス脅しでした。こんなのどかな矢田丘陵を後にして、大和郡山市の駅前に向いました。街中に出れば、きっとレストランがあるでしょう。

 しかし、そう思ったのは大間違い。以前に来たことがある大和郡山城の近くを通って駅前に出ましたが、近鉄の駅近くにも、JRの駅近くにも、レストランは見当りません。市役所や消防署がある辺りは道路が複雑で、カーナビの言う通りにしていたら、カラー舗装の駅前商店街(もちろん、車の進入は可なのですが)を何度も通ってしまいました。

 作戦変更して、ファミレスやコンビニが載っている道路地図(でも少し古い)にある郊外のファミリーレストランを目指しました。「あー、そこ、そこに・・・ええっ、ファミレスが潰れてコンビニになっているやんか。」、両親はお腹が空いています。こうなったら仕方ありません。食物を買ってきて、車の中で食べることにします。目に留った郊外型のスーパーの駐車場に車を入れました。

 車が止ると、ともちゃんは目を爛々と輝かせて「はぁ、はん。」と両親を急かせるように声を出して張切っています。前回の「すごく遠くの百貨店」がとても楽しかったのでしょう。きっと今度も楽しいところに着いたに違いないと思っているようです。ともちゃんには可愛そうですが、今回はお母さんが急いで買物に行き、ともちゃんは車の中で、水分補給をしました。

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2004年5月19日(水)

今日、ともちゃんは修学旅行に行ってきました。新幹線で新大阪駅から岡山駅まで往復するという、ともちゃんのためのスペシャルコースです。ともちゃんにとって岡山駅は最大移動距離の記録更新であり、しかも列車で行く(さらには列車の中でミルクの注入をする)という一大偉業を成遂げたのです。というわけで、長い長い修学旅行のお話の始りです。

 中学部の修学旅行は2泊3日で、岡山から観光バスで瀬戸大橋を渡り、香川県の与島から船に乗ったり、おもちゃ王国に行ったり、ドイツの森でアイスクリーム作りを体験したりというものです。けれども、夜間の呼吸管理が必要なともちゃんはロボタ(酸素濃縮器)を連れて行くわけにもいかず、宿泊を伴うお出かけはできません。日帰りでも、体力のないともちゃんは遅くとも午後3時頃には帰宅する必要があります。

 こんなともちゃんの状態をお母さんが先生方に相談して決めたのがこのスペシャルコースでした。みんなと一緒に新幹線に乗ろう、新幹線の中で旅情を味わいながらミルクの注入もしようというのです。奇しくも小学部の修学旅行も岡山方面(倉敷)で、その時も先生方と相談して新幹線での岡山日帰り計画を立てていただきました。しかし、出発日が10月後半で、残念ながら体調不良のため参加することはできませんでした。

 中学部の修学旅行は5月なので、ともちゃんにとっては体調が安定するうれしい季節です。今度は行けるかもしれないと期待が高まっていました。幸い、5月に入ってからともちゃんの体調は絶好調でした。登校した時には、修学旅行に向けての事前学習にも笑顔で参加して、ともちゃんはすっかり修学旅行に行く気満々、とても楽しみにしていました。

 そんなともちゃんを見ていて、お母さんもともちゃんが当日元気であることを願わずにはいられませんでした。少しでもともちゃんに負担をかけずに参加できるように、お父さんも会社を休んで、ともちゃんの送迎をしてくれることになりました。そしてもう一つ気になるのが当日の天気。週間天気予報が発表されてから、ずっと当日は雨の予報だったのですが、数日前から午前中の降水確率が低くなっています。

 今日、ともちゃんはいつもより1時間早く起きてきました。張切っているのでしょう。これなら、朝食をゆっくり食べても大丈夫だと思っていたら、早起きが仇になって、朝食前にけいれん発作が起きてしまいました。そして、その後1時間ぐっすりと眠ったので、早起き分の時間はなくなってしまいました。

 せっかくのともちゃんの頑張りを思うと、すごく悔しい気がしますが、仕方ありません。しんどくて朝食が食べにくいのなら、修学旅行は諦めて今日はゆっくりマイペースで過ごしましょう。ところが、ともちゃんは底力を見せました。しっかりと口を開いて、1時間で朝食を食べ終えました。気力だけでなく、けいれんによる肉体的なダメージもぐっすり眠ることで回復したようです。

 この時間ならお父さんに学校に送ってもらって、学校からスクールバスで新大阪駅までみんなと一緒に行くことができます。お母さんは、できるだけともちゃんが修学旅行に参加できるように、新大阪駅でみんなと落合うケースも考慮して、あらかじめ先生と相談していました。でも、みんなと一緒に学校から出発できるなら、それにこしたことはありません。それに、スクールバスなら、新大阪駅で雨に降られても(バスの中で雨よけビニールコートをセットできるので)全く濡れることなく下車することができます。

 お父さんの車で登校すると、中学部の1年生と2年生が校門のところまで出てきていました。あれ、他の学年は今日は散歩に出るのかなとお母さんは思いましたが、それは間違い。楽器を持って、修学旅行の歌を歌って、3年生がバスで出発するのを見送ってくれていたのでした。中学部の例年の慣習なのですが、ともちゃんは1、2年とも休んでいてお見送りはしていないので、このことを知りませんでした。

 ともちゃんも盛大に見送ってもらって、バスに乗込みました。ともちゃんは、ここまで張切ってきたので、ちょっと疲れてボーッと反応が鈍くなっています。今度、もしともちゃんに大きな発作が起ったら、新大阪から帰宅しなければなりません。新幹線の車中で起ったら、もっと大変です。それで、新大阪に着くまでは、ともちゃんが少しでもリラックスできるようにとバスの中でお母さんが抱っこしていました。

 そうはいっても、張切っているともちゃんはリラックスできるはずもなく、周りの様子をうかがっています。途中、隣に座って下さった先生やお友達の気配を感じて、我に返ったように嬉しそうな笑顔を見せていました。無事に新大阪に到着です。雨も降らずに、天気の方も持ちこたえています。バス乗降場でともちゃんたちがバスを降りていると、先方には止っている観光バスに乗込んでいる修学旅行生たちがいます。こんなに早く大阪着なんて、きっとすごく朝早く新幹線に乗ったんでしょうね。びっくりです。

 ともちゃんたちは、道路渋滞を見越して新幹線の発車時刻よりも随分早く到着したので、団体待合室でしばらくゆっくりと過しました。昨年の修学旅行では渋滞にあって、発車時刻ぎりぎりに到着して大変だったと聞いています。昨年はたまたま車椅子の生徒が在籍していなかったので、それでもなんとか間に合いましたが、今年は車椅子の生徒が3人もいるのでそういう訳にはいきません。

 以前に家族で新幹線で京都まで行った時に、ともちゃんはすでに経験していることなのですが、新大阪駅に乗客用のエレベータはありません。エレベータを利用するためには、駅員さんに申出て、駅員さんの案内で、駅弁を作っている部屋の横、売店の荷物の積まれた横を通って、荷物用のエレベータに乗り、ホームに上がります。場所柄、勝手に行くことはできないので、十分にゆとりを持って、駅に着いておく必要があります。

 はやる心を抑えて待合室で待っている間、ともちゃんはしばしボーッと省エネ(省体力)モードに入っていました。「そうそう、今日は長丁場やねんから、今は脳を休ませといたらええねんで。」、他のお友達もトイレに行ったり、座込んだり、おしゃべりしたりとそれぞれに過しています。ここでも、ふとモードが切替ってしっかり覚醒すると、ともちゃんは周囲の様子を感じて、ニコニコと笑みをこぼさずにはいられません。それを見たお友達や先生に話しかけてもらって、またニコニコと嬉しそうでした。

 時間がきて、いよいよホームに上がります。ともちゃんとYくん、Sちゃんの車椅子3人組は、駅員さんに案内されて、駅の舞台裏を通り、エレベータへ向かいました。他のお友達は添乗員さんに案内されて、通常の改札から入りました。ホームにはともちゃんたちが乗るより1台前の新幹線、グレーの車体に青とオレンジのラインの入ったひかり号がすでに入っていて、わくわくする気分を盛上げます。

 ともちゃんが乗るのはこだま653号、この駅が始発なので早くホームに入ってきました。ゆっくりと乗込めます。車体には紺色のラインの下に黄緑色のラインがあります。先ほどのひかり号もそうですが、もう長い間新幹線に乗っていないお母さんは新幹線といえば白い車体に青いラインと思っていたので、カラフルな新幹線にちょっとびっくりでした。

 ともちゃんたちの乗る車両は4号車です。乗込もうとすると、ドアの幅が狭そうなのが気になります。座位のとれるYくんやSちゃんの車椅子(ともちゃんのものより幅が狭い)でもぎりぎりだったので、ともちゃんはドア幅の広い隣の3号車のドアから入りました。ともちゃんは左右にそれぞれ2列の座席配置の間の通路を車椅子で通り、先生に抱っこしてもらって席に着きました。

 新大阪~岡山間はこだま号で1時間18分。この間にミルクの注入の準備をして、ゆとりを持って完了してしまわないといけないので、お母さんはすぐに準備を始めました。イルリガートル(ミルクを入れる袋)を掛ける点滴棒が付いた車椅子は通路には置けず、デッキに出したので、イルリガートルはS字フックを用いて網棚の底の金属パイプに吊しました。

 向い合せた座席に進行方向に向って座っているともちゃんの鼻チューブにイルリガートルを繋ぎました。その向いにはお母さんと看護師さんが座って見守っています。看護師さんは医療的ケアが必要なともちゃんのために来ていただいていて、ともちゃんと一緒に日帰り旅行をして下さいます。走り出した車内で、イルリガートルのチューブの中をポタポタと流れ落ちていくミルクを見ながら、お母さんは感慨深いものがありました。

 ともちゃんが経管栄養になって4年半。小学部に復帰して以来、ずっと学校行事で校外へ出て、校外でミルクの注入をするということを一つの目標にしていました。修学旅行以外にも宿泊学習や遠足でも、先生方はともちゃん用の予定とミルクの段取りを考えて下さいました。家の方でも、お父さんに休みを取ってもらったり、お母さんが前もって行先の河川敷公園の下見に行ったりしました。けれども、どれも実現するには至りませんでした。今日、初めて、ともちゃんは校外で、しかも新幹線の中で注入をしています。

 ともちゃんは横抱きに抱っこされていて背後に窓がある状態ですが、景色の移り変りが気になるようです。こだま号は新神戸、西明石、姫路、相生と10分余ごとに各駅に止まりながら、のんびりと進みます。そう、事前学習ではこだま号が止まる駅を習って地図を作りました。ともちゃんも「新大阪」の文字に先生と色を塗ったよね。姫路城が見えた時には、ともちゃんはお父さんの車で行ったことがあるよと自慢げです。

 ともちゃんの後とその後の座席には、車椅子から降りたSちゃんとYくんが先生と並んで座席に座っています。SaちゃんとAちゃんはさっそくおやつのポテトチップスを食べながらおしゃべりしています。体の大きなSiちゃんは、座席の間隔が狭くて窮屈で、足が通路にはみ出てしまいます。それに気付いた先生が、後の席と向い合うように座席を回転させて一件落着。Siちゃんも2列分のスペースを使ってゆったりと足を納めてくつろいでいました。

 そんな車内の友達の様子も感じながら、ともちゃんのミルクの注入は順調に進み、余裕を持って終りました。しかし、天気のほうがとうとう崩れて雨が降出してきました。ともちゃんはトンボ帰りなので、岡山駅の天気はあまり気になりませんが、これから瀬戸大橋を与島まで行って、船に乗るみんなには困った雨です。

 あこがれの岡山駅に到着しました。乗込む時とは違って通常の停車なので、少し早い目にともちゃんは車椅子に乗ってスタンバイしていました。それでもいざ降りる時には、吸引器や予備の酸素ボンベなどのたくさんの荷物に気が回っていなくて、お母さんはあわてました。とはいえ、そこは修学旅行。先生が気付いて下さっていて、駅員さんにも手伝ってもらって無事にホームに下ろしてもらいました。

 岡山駅でも車椅子は駅の裏方さんの荷物用エレベータを利用します。車椅子3人組はみんなと離れて駅員さんに案内されて1階に下り、荷物用の別の出口から出て中央改札を抜け、駅の前の屋根の下で待つみんなと合流しました。荷物搬入口から駅前の屋根の下までほんの少しの距離ですが、雨に濡れるのでともちゃんは車椅子に屋根を取付けて雨カバーを被せて行きました。

 岡山駅の前で全員で記念写真を撮ったら、みんなは観光バスに乗込み、ともちゃんは帰路に着きます。本当は桃太郎の像の前で撮影したかったそうですが、雨のために像のところまで行けず、屋根の下から見えた「岡山1番街」という看板の前で「おっ、これは岡山駅に来た証拠になる」とばかり撮影しました。ともちゃんは岡山駅まで来たことに満足そうに大きな口を開けて笑っていました。

 帰りはのぞみ号でビューンと一気に帰ります。車椅子車両に座席指定も取ってもらっています。ホームに上がるには、また駅員さんに案内してもらって荷物用のエレベータを利用しなければなりません。もし、駅員さんに指定券を持っていることが伝わっていなくて、来てもらうのが遅れたら大変です。みんなと別れた後、13時22分発ののぞみ54号の発車まで35分しかありません。

 お土産も買いたいし、早い目にホームに上がっておきたいし、予定便に合せて案内してもらえるよう早く駅員さんに連絡しておかないといけないしとお母さんは気が気ではありません。添乗員さんが「駅員さんに連絡しておきましょうか。」と言って下さって、13時05分にみどりの窓口の前で待合せることになりました。添乗員さんは、その後、バスに向ったみんなの後を急いで追って行かれました。

 ちょうどみどりの窓口の向いにはお土産屋さんが並んでいます。急いでお土産を買いましょう。ともちゃんは家で過している間、「修学旅行に行ったら、岡山でお土産を買おな。何を買お?」と言われてお母さんと岡山名産を調べたり、家族のリクエストを聞いたりして楽しみにしていました。みんなのお小遣は5000円、それも千円札を4枚、100円玉を10枚にして持参すると聞いていたので、ともちゃんもキティちゃんの財布にこの通りお金を入れて持って行きました。

 落とさないように財布に付けた長いリボンを車椅子の押手にかけて、財布自体はともちゃんの膝の上に置きました。「さあ、お土産を買うよ。」、1軒目のお土産屋さんの店先にフルーツ味のきび団子を発見。「これや、お姉ちゃんが言うてたの。」、他にも桃ゼリーなど買って、お母さんがともちゃんの財布からともちゃんに声をかけながら支払をしました。

 次の店には、ぬいぐるみやマスコットが飾られています。岡山のマスカットの房の中に埋もれたキティちゃんのマスコットがありました。「ともちゃん、こんなんあるで。これする?」とお母さんが声をかけると、お店の人が「これ、かわいいでしょう。人気あるんですよ。」と話かけてきました。その言葉を聞いて、ともちゃんはパアッと満面の笑顔を浮かべて、愛想よく「これにする。」と意思表示。自分で決めた、自分用のお土産です。

 お母さんは、お迎えのお父さんと中間テスト中のお姉ちゃんのために、岡山駅の駅弁、岡山名物を集めた「下津井旅情」と「たこめし」を買いました。一緒に帰る先生と看護師さんも昼食の駅弁を買っておられました。まだ、約束の時間には少し早かったのですが、みどりの窓口の前の店をうろうろしていたともちゃんたちを駅員さんが見つけて下さいました。到着した時に案内してくれたのと同じ人でした。

 買物も完了して、来た道を通ってホームに上がりました。ホームの売店の店先にある駅弁を見て、お母さんが急いでまた駅弁を一つ買いました。「ハローキティの祭りずし」です。ともちゃんはお弁当の中身は食べられないけれど、弁当箱が桃太郎の格好をしたキティちゃんを浮彫りで形取っていて、かわいいので是非買おうと言っていたものです。先ほどのお弁当屋さんにはなくて、残念に思っていたところでした。

 余裕を持って乗車位置まで車椅子を進めて、ほっと安心。見ると、ともちゃんは膝に置かれた財布を緊張した左手でしっかりと挟んでいます。「大事な財布やもんな。落とさんように、ぎゅっと押さえてたんか。偉いなあ。」と看護師さんに誉めてもらいました。定刻に滑込んできたのぞみ54号はカモノハシの顔をしています。今度は車椅子車両のドアから入り、車椅子スペースに車椅子を止めて、隣の座席にともちゃんを抱っこしたお母さんが座りました。

 新大阪駅までの46分の間に、ともちゃんは水分補給をします。100ccの白湯にソリタを溶かし、50ccずつを15分空けて、注射器でともちゃんの鼻チューブに注入します。ともちゃんにとって、ソリタの注入は毎日何度もしていることですが、学校でソリタを注入したことはないので、看護師さんに準備をしてもらい、お母さんが注入しました。

 残りの時間を利用して、先生も看護師さんもお母さんも慌ただしく昼食を摂ります。ともちゃんには食物アレルギーがあるために、ともちゃんを抱っこして食事を摂る時には、とても神経を使います。今回はそんな暇はないと思っていたお母さんは、あらかじめコンビニで梅と昆布のおにぎりを買っていました。梅も昆布もご飯も海苔も、ともちゃんのアレルゲンではないので気を使わずに食べられる数少ない食品です。

 注入の後、お母さんに抱っこされたともちゃんは「ナアーン」、「アーアー」とたくさんおしゃべりをしてくれました。先生にも感心してもらいました。「新幹線乗ってるやんな。」、「すごく遠くまで行ってんで。」、「お姉ちゃんにもお土産買ったで。」、ともちゃんには、聞いて、聞いてという思いがたくさんあったのでしょう。「のぞみは早いなー。ほら駅には止まらへんねん。」、「ホン」タイミング良く返事もしてくれます。

 こだまでゆっくりと楽しんだ往路とは異なり、のぞみでの帰路は本当にあっという間でした。お父さんには帰りの便、車両番号を伝えて、ホームまで迎えに来てもらえることになっています。のぞみ号が新大阪駅のホームに滑込むと、すでに車椅子に乗ってデッキでスタンバイしているともちゃんと、荷物を抱えた先生やお母さんは「お父さん、来てるかな。」と探しました。「おっ来てる来てる。」、すましてよそ見をしているお父さんの前を通過ぎて、のぞみは止りました。

 「おかえり、修学旅行行けてよかったなあ。楽しかったか。」、大阪ではザンザン降りの雨でしたが、屋根の下の昇降場所に車を移動してもらって、車に乗込みました。先生と看護師さんに見送られて、ともちゃんの修学旅行は無事終了しました。ともちゃんはお友達や先生と、養護学校の生徒として、家族でのお出かけでは味わうことのできない楽しい時間を過ごしました。

 でも、ともちゃんは「まだ、もっと、もっと!!」と興奮しているのでしょう。帰りの車の中でもたくさんおしゃべりしています。その声はしだいに大きくなって、オオーオオーと強い口調になっていきました。「学校ではホテルに泊まるって言うてた。お父さんがロボタ(酸素濃縮器)持ってきてくれたらええのに。まだ、帰らへんで。」、でも、お母さんが「行けてよかったやん。」と話しかけると笑顔で「ギャハハハハ」。

 ともちゃんが家族でお出かけする時は、いつもお父さんの運転する車でです。列車でのお出かけもしたいのですが、ともちゃんのお出かけ用品の多さを考えるととても両親だけでは無理でした。痰の吸引器(実際は使わずに済みました)、予備の酸素ボンベ(帰りののぞみ号で1本交換)、経管栄養のミルク注入セットと水分補給セットなど、ともちゃんお出かけ用品一式を持参して列車での旅ができたのは、先生方、看護師さんはもちろん、添乗員さん、駅員さんなど多くの方々の手助けがあってこそでした。

 家に着いて、ともちゃんが車椅子ごと入るために、ガシャーンと大きな音を立ててドアを全開にしてストッパーで固定しました。この音で、昼寝をしていたお姉ちゃんがのっそりと起きて、玄関まで出迎えてくれました。「ともちゃーん、良かったなあ。楽しかったか。」、すると、ともちゃんは目をキュッと細めて、顔をくしゃくしゃにして、大きな口を開けて高らかに「アハハーン。」と答えていました。

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2004年5月29日(土)

昨年も一昨年も、ともちゃんの春は万博公園である「ハローキティと桜まつり」でスタートしました。けれど今年は、桜まつりには行っていません。キティさんが桜まつりに来なかったからです。今年のキティさんは桜まつりの代りに、3月からエキスポランドで開催されている「サンリオ・オールスタータウン ハローキティ30周年」という催しの方に出ています。

 そろそろ、入場者の混雑も落着いてきたでしょう。今日はキティさんに会いに行きました。お出かけ意欲満々のともちゃんは朝早く出発して、高速道路の渋滞もなかったので、エキスポランド近くの万博公園中央駐車場に着いたのは9時でした。開園には少し早いようですが、すでにウロウロしている人もいます。お父さんが偵察に行った結果、開園は9時45分、サンリオタウンは10時からということが分りました。

 朝食から1時間以上経っていますから、開園を待つ間、車の中でミルクの注入をしました。食後の散歩として、ゆっくりとサンリオタウンに行けるのがいいでしょう。ともちゃんが注入している駐車場の後にモノレールの駅があります。ともちゃんの家から見えているモノレールがここまで来ているのです。モノレールからも、まだ開かない遊園地を目指してパラパラと人がやって来ます。

 車椅子駐車スペースは、大型バス駐車区画の横にあります。観光バスが1台止まり、子ども会の団体が降りてきました。駐車場をわいわいと横切っていく子供達の歓声に刺激されて、ともちゃんもニコニコと楽しそうにしています。また1台観光バスが来ました。今度は中学校の修学旅行です。

 こんなふうに人の流れを見ながら注入をしていると、時間は早く経ちました。ともちゃんの注入が終る頃にはゲートも開いて、観光バスも連なってやって来ました。人の流れも多くなって、チケット売場には行列ができていました。ともちゃんは小学部3年生のときの遠足でエキスポランドに一度来ています。園内に入ると、お母さんはその時のことを思い出しました。

 重複障害の子供たちが昼食後に乗物に乗って遊んだアンパンマンランド、そして昼食を摂ったレストランの前を通ります。まだ経管栄養になってはいなかったともちゃんは、ここでお粥ペースト弁当を食べて、先生と食後の昼寝をしていたっけ。キティさんの看板が見えてきました。「ハロー、ハロー、キティ、こんにちは」とキティさんのテーマ曲が聞こえ、声をかけるとともちゃんは目を輝かせて笑顔になりました。

 入館すると、最初の写真撮影ポイントであるオールスターキャッスルの順番待ちで並んでいます。待っている間はワクワクした気持ちになるのか、ともちゃんはキティさんのパネルの前で笑顔をたくさん見せてくれましたが、いざ、パノラマのキティさんの模型の横に並ぶとすました顔をしていました。

 あっ、本物のキティさんがいます。が、ここでも撮影したい人が並んでいます。ともちゃんはキティさんに会って、大きな口を開けてワアアと笑いました。この絶好のシャッターチャンスを逃したお母さんはちょっと悔しくて、ともちゃんにもう一度大笑いして欲しかったのですが、後方に続く行列に急かされて次のコーナーへと向かいました。

 「うちのキティさんよりもえらい大きいなぁー。」、空気で膨らませた大きなビニール製のキティさんがいます。「いろんなグッズが出ててんなあ。」、歴代のグッズが展示され、歴代のキティさんのデザインがパネルになっていました。他のキャラクターの遊びコーナーはパスして、ともちゃんが次に行ったのは「なりきりスタジオ」でした。

 ドレスを選んで着て、キティさんの顔のついた帽子をかぶって、キティさんになりきって写真撮影してもらいます。ともちゃんは車椅子に乗ったままで撮影するので、お父さんが選んでくれたドレスをケープのように羽織りました。キティちゃんの耳と顔のついた帽子をかぶせようとすると、ともちゃんは嫌がります。もともと帽子は嫌いですが、ぬいぐるみのような帽子は暑いようです。

 ともちゃんの額の汗が暑いのを物語っていたのですが、「ちょっと辛抱しいや。キティさんになってんねんでー。」と何とか変身完了。でも、ともちゃんのリクライニング状態の車椅子(シーティング)では、普通に立位の人を撮影するために固定されたスタジオのカメラで撮影すると、顎の下から見上げた形になって、顔もせっかくの帽子もきれいに写りません。

 スタジオのカメラもデジカメなので、プリントする前にこれでいいか確認させてもらえます。もう一回、もう少しリクライニングを起こして撮影してもらいました。キティさんコスプレのともちゃんが、キティさんのお城で、キティさん(模型)の方を向いて話しかけているような写真の出来上りです。

 最期のコーナーはサンリオグッズのお土産コーナー。ともちゃんは実用的にハンドタオルと吸引器用の水入れにする水筒とキティさんの顔のクッションを選び、お姉ちゃんへのお土産にはキティさんのたこせんべい(明石限定品)を買いました。「朝、風除けに羽織っていた上着が暑かったなあ。ここを出たら脱ごな。」と会場を出てくると、隣の建物は巨大な白熊がお出迎えのマイナス30度体験の館。白熊さんと写真だけ撮りました。

 屋外のテーブルで水分補給をした後、少しアンパンマンランドを覗いてみました。SLマンの汽車など、ともちゃんには丁度よいくらいの刺激の乗物があるのですが、幼児用の作りなので座席なども小さく、身長が長くなって手足を突っ張りがちなともちゃんを抱いて乗るには、手足をどこかに引っ掛けそうで、危険な感じがします。

 安全第一がともちゃんのモットーですから、アンパンマンランドの乗物は諦めて、お父さんとキティさんの200円乗物に2回乗りました。高低差のある園内を車椅子で散歩をしても、開館前にミルクを飲んでいるので、今日は時間にゆとりがあります。まだ家に帰るのには遊び足りないという顔のともちゃんに、お父さんがとてもいい提案をしました。「万博公園もちょっと寄って行こか。」

 このお父さんの何気ない一言が今日のお出かけの楽しさを倍増することになりました。エキスポランドと万博公園の間を通っている中国自動車道を越える歩道橋を渡って、入場ゲートのところまで来た時、公園の柵の内側を走るチューチュートレイン(汽車型をしたタイヤで走る乗物)を見かけました。そう、去年の秋の農業公園めぐりで、ともちゃんが大好きだったチューチュートレインです。

 「ここにチューチュートレインってあったか。最近、でけたんかな。」、急いで園内に入ると、ともちゃんが見かけたトレインが、中央口の停車駅で止っていました。乗車客がずらりと並んで順番を待っています。一番後の車両には車椅子マークがついています。見渡したところ車椅子の方は居られないようだし、ともちゃんはこの車椅子スペースに乗せてもらいましょう。

 両親は気持ちが急きましたが、トレインはここで時間待ちをするようで、あわてる必要はありませんでした。3両目の最後部が車椅子スペースで、車両の後部に折りたたまれた壁を伸ばすとスロープになります。ですから、車椅子にともちゃんを乗せたままで乗車することができました。チューチュートレインもここまでバリアフリーが進んだかと嬉しくなりました。

 乗車した後、ともちゃんはお父さんに抱っこしてもらって、車椅子スペースの座席に座りました。諦めたアンパンマンランドの幼児用の乗物とは違って、ここではゆっくりと安全に座席につくことができます。トレインは梅林、茶畑を抜けて、森の中へと入ります。ともちゃんは移り変わる景色にキョロキョロ。石畳の遊歩道を越える時はゴトゴトゴトと小刻みにゆれます。ともちゃんは楽しそうに笑っています。

 トレインは、ともちゃんがまだ保育所に通っていた頃に行ったことのある川辺や広場の横を進み、去年キティちゃんが桜まつりで来ていた鉄鋼館の傍も通って、たっぷりと40分くらいかけて6つの停留所をつないで園内を一周しました。途中、車椅子スペースの一角にある座席に陣取った車掌さんが、マイクを持ってずっと案内もしてくれました。

 お父さんは万博公園にチューチュートレインが走っていることは知らなかったのですが(4月27日から運行を開始したばかり)、エキスポランドで乗物に乗れなかった悔しさを埋めて余りある楽しい時間を過ごすことができました。中央口に到着して、キティさんとチューチュートレインでいっぱい遊んだともちゃんが酸素ボンベを交換していると、横で一周走ったトレインも運転手さんに燃料のLPガスのボンベを交換してもらっていました。

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2004年6月13日(日)

梅雨の谷間にして、台風一過のカラッと晴れた青空のもと、ともちゃんは葛城山麓公園にお出かけしました。阪和自動車道から分岐する南阪奈道路が開通したと聞いていたので、「道路族」(車でのお出かけ大好き)のともちゃんとしては、どんなところか「道調べ」に行きたいと思っていました。

 南阪奈自動車道は美原町から、羽曳野市、太子町、當麻町を経て、奈良県の新庄町までの16.9kmの道路です。出発する時間がちょっと遅くなっている今日のような日のお出かけにはちょうどいい距離です。終点の新庄では、どこでミルクの注入をしましょうか。ともちゃんがお母さんとお出かけの用意をしている間に、お父さんがちょいちょいと適当な行先を調べてくれました。

 ともちゃんのワクワクするような笑顔を積んで、さあ出発します。葛城山麓公園は果してどんなところしょうか。阪和自動車道から南阪奈道路に分岐すると、さすがに1ヶ月半前に開通したばかりの道路、左右の金属性の防音壁が快晴の陽の光でキラキラと輝いていました。料金所は無人で自動支払機が備えられています。ボタンや投入口がズラリと並んでいてちょっと戸惑ったお父さんですが、障害者用のボタンを押して、身障者手帳を見せて、障害者割引をしてもらいました。以前に行った第二京阪道と同じ方式です。

 日曜日の朝の遅い時間ですが、思っていたよりも通行している車がありました(1台も通行していないかと思っていました)。みんな、どこまで行くのでしょう。トンネルを抜けた山肌には、棚を添えられた木が植えられていましたが、ぶどう畑でしょうか。4つ目のトンネルを抜けると新庄町の町並みが広がっています。高架の上から遥かに眺めると、かなり広範囲に家が建込んでいるように見えて、大きな街のように思えるのですが、近付いて見下ろすと緑の中にゆったりと家が立っているところが大阪とは違います。

 高速道路を下りて、葛城山を目指します。昨日までの雨で新緑が洗われたためか、夏至を目前にした夏の太陽が本領を発揮したためか、山の木々の緑がとても眩しく輝いています。陰影がくっきりしているので、山の稜線が激しく際立った葛城山の形がはっきりと見て取れます。山の木々の中にえぐられたような道が頂上までまっすぐに延びていて、その先には建物があります。きっと葛城山ロープウェイでしょう。

 公園の入口を入ると、車道より低いところに遊歩道がついていて、周囲にアジサイや菖蒲が咲く水辺が見えます。「よさそうなところやん。でも、どこに車を止めるんやろ。」、駐車場は見当たらず、路上駐車禁止の標識に従って山道をどんどん進むと、行き着いた駐車場はどうやら公園墓地の駐車場。でも、墓地の反対側は子供の遊具を備えた公園になっていて、家族連れが遊んでいます。

 ともちゃんもここでミルクの注入をしましょう。顎を上げて葛城山を仰ぎ見るような位置にある園内のベンチに座って注入をしました。青空の中の雲が山に影を落しながら、とても速い速度で移動していますから、じっと山を見つめていたお母さんは山に飲込まれそうな迫力を感じました。「ともちゃん、見てみ。葛城山やで。」と言うお父さんの声かけに、ともちゃんは横目でチラっと山を見て、でも興味無さそうに後はおすまし。

 車椅子に取付けた日傘で日陰を作って、その中でお父さんに抱っこされているともちゃんは、景色よりもお父さんの方が気になります。時々顔を覗込んだり、笑いかけたりしています。「子供やもんな。葛城山よりも、お散歩の方がええか。」と、遊具で遊ぶよその子供たちの声を遠くに聞きながら、お父さんが言いました。

 ミルクの注入が済むと、遊具の公園を散歩しましたが、遊歩道はどこも段差があって先へは進めず、かつて奈良シルクロード博で香りのテントとして用いられたというグルグル渦巻きになっているテントに入れただけでした。来た道を引返して、アジサイの咲いていた公園に行ってみました。最初は見落していましたが、その近くに駐車場もありました。

 けれど、さすがに山麓公園です。駐車場から遊歩道のある散歩コースまで山道を登り、谷側に下り、そこからまた遊歩道を下りました。ともちゃんは、念願のお散歩ができてご機嫌でしたが、車椅子を押すお父さんには重労働です。それで、遊歩道の終点(逆に回ったので、本当はここが入口)に着くと、お父さんは「車をここまで持ってくるから待っとき。」と言いました。ともちゃんはお母さんと待っていて、そこから車に乗込みました。

 ともちゃんの両親は、思いがけなく急峻な立上りを見せる葛城山の「山麓」公園を視覚的にも、肉体的にも存分に体感し、改めて葛城山の960mの高さを認識しました。さて、ともちゃんはどう感じたのでしょう。新しい道の先にあったのは、照りつける太陽とそれを受けてキラキラ輝く緑の葉っぱ、その中で飲んだミルク、その中を行く坂道の楽しいお散歩だったかもしれません。

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2004年6月20日(日)

天気予報では台風が近づいているため雨が降ると言われていたのに、太陽が輝き、風もそれほど強くありません。それなら「道調べ」に出かけましょう。前回出かけた「南阪奈道路」の他にも、もう一つ気になっている道路があります。ともちゃんが、かつて御坊(道成寺)まで行ったことがある「阪和道路」が南部(みなべ)まで延長されました。御坊の先、白浜のちょっと手前、南部はどんなところでしょうか。

 阪和道を南に下って行くので、どこかで南からやってくる台風の雨と出会うかもしれません。そうしたら、諦めて帰って来るつもりで出かけました。「全然、雨降ってないで。」、どんどん車を南に進めますが、雨の気配はありません。貝塚のあたりで一度パラパラとフロントガラスに細かい雨粒がついてきましたが、「狐の嫁入り」で太陽の光は差しています。「引き返すほどの雨でもないなあ。」と両親が話しているうちに、雨は上がり、文句なくさらに南下を続けます。

 和歌山を越えて海南湯浅道路に入ると、長いトンネルに差掛かります。お母さんの抱っこでボーっとしていたともちゃんは、トンネルに入ると大喜びで声を出してニャハハハ、ニャハハハと笑いだしました。昼光とは異なるナトリウムランプの照明が気になったのでしょうか。「トンネルやねえ。オレンジのライトやねえ。トンネル好きなん。」、「ナーン」とタイミングよく返事もしてくれます。

 長短いくつものトンネルを抜けていくうちに雲行きが怪しくなってきて、ザァーと本格的に降ってきました。「どうする。」、「でも、まあ、ここまで来たんやし、どんなところか、行ってみよか。」と両親は相談しています。しかし、次のトンネルを出ると、もう雨は上がっていました。結局、今日のお出かけで雨にあったのはこれだけで、後はお日さまさえ照っていましたから、天気予報を鵜呑みにせずお出かけしたのは正解でした。

 御坊を越えると新しい道、延長された阪和道です。ここからもいくつもの短いトンネルを通りましたが、ともちゃんは短いトンネルには特に反応することはありませんでした。印南町にあるトンネルの入口には天文台の絵が描かれていました。御坊では道成寺が描かれていたので、きっと印南町は天文台のある町なのでしょう。

 南部は梅林がとても有名です。けれども、梅の花のない今の時期では、梅林に行ってもつまらないでしょう。それなら、南紀の海を見ながらミルクの注入をしたいと、ともちゃんとお母さんが探した場所が「紀州南部ロイヤルホテル」です。海の見えるホテルのラウンジでミルクの注入を行えば、ちょっとしたリゾート気分かなと思いました。宿泊のお出かけをしないともちゃんにとって、きっと新鮮な体験になるでしょう。

 終点のみなべ(インターチェンジの名前は平仮名の「みなべ」)で阪和道を下りた後、ホテルに行くには海沿いに少し印南に向けて戻らなくてはなりません。海に近づくと、台風のためか店はどれも閉っているのですが、「めざし」と書いた看板が並んでいます。「ああ、海辺に着たんだと。」と喜んだのもつかの間で、南部川河口に架かる南部大橋を渡るときに見えた海は、恐ろしい様相を呈していました。

 茶色く濁った高波が首をもたげていて、海から何も遮るものがないこの道路まで飲込まれそうな気がします。波がここまで来ないうちに早く橋を渡ってしまおうと言う気になります。実際は波打ち際から橋まではかなりの距離があったのですが、橋の位置から見上げた波は通常なら空であるはずの領域まで達していて、砕けるときには橋まで押寄せてきそうな勢いを感じました。海は明らかに台風の海です。

 また少し山道を登った先、ホテルはちょっとした高台にありました。ここまで波が攻めてくることはないと思うと安心です。海を見て確実に台風が近づいてのいるは実感していますが、風はやや強いとはいえ晴れたり曇ったりしている空を見ている分には、台風だとは思えません。今日は日曜日なので昨日からの宿泊客でしょうか、駐車場にも車が結構たくさん止っていて、入口にもロビーにも家族連れの姿が目に付きます。

 入口を入ってぐるりとロビー内の様子を見渡すと、思いがけなくお土産コーナーにベンチに座っている大きなキティちゃんを見つけました。「帰りに寄ってみよ。」と約束しました。お目当てのロビーのラウンジは宿泊客の朝食が一段落したところで、ちょうど空いていました。よりどりの席の中から波間が望める席に陣取って、高い位置から荒れた海を眺めながらミルクの注入をしました。「怖い海やねえ。台風やねん。ともちゃんが、前に海水浴に行ったときは、こんなんと違ごたねぇ。」

 11時になってランチタイムが始まると、それまでコーヒーやソフトクリームで時間を繋いできた両親はそれぞれにランチメニューを注文しました。ホテルで食事をすることがないお母さんは、このチャンスにとホテル内のレストランをいくつも事前に調べたのですが、結局ともちゃんにとっては便利、お母さんにとっては安いということで、ここのランチメニューに決めていました。

 海を眺められるだけではなく、結婚式のアナウンスがあったり、バスで団体さんが到着したりと、ホテルのロビーは華やいだ喧騒に満ちていて、非日常的な楽しい雰囲気の中でミルクの注入を終えました。お母さんが勘定を済ませている間に、ともちゃんはお父さんとさっさと特大キティちゃんのところへ行って、一緒に写真撮影をしています。

 後で分ったことなのですが、ここのホテルには部屋中キティちゃんがいっぱいの「ハローキティルーム」があって、「ハローキティのリゾートプラン」という宿泊プランもあります。その記念にということでしょうか、お土産屋さんにはキティちゃんのぬいぐるみもグッズもありました。ただし、特大キティちゃんは非売品でした。「キティさん、いっぱいおるなあ。」とお母さんが追いつくと、お父さんが「紀州くじらキティと紀州梅キティもおるで。」

 せっかくの梅の名所に来たのですから、ともちゃんのお土産は「紀州梅キティ」。本当はぬいぐるみが欲しかったのですが、このぬいぐるみは無かったのでキーホルダーと小さなぬいぐるみにボールチェーンがついたマスコットを買いました。「南部にはおっきなキティさんと紀州梅キティさんがおったなあ。海は台風の海で怖かったなあ。」と南部に満足して帰路に着きました。

 ともちゃんの水分補給をするために紀ノ川サービスエリアに寄りました。ソリタの注入の後、お土産品のコーナーを見て回っていて、ちょっと悔しい思いをしました。欲しかった梅キティのぬいぐるみが売られていたのです。梅キティのポスターまで貼ってありました。でも、ともちゃんの梅キティちゃんは本場、南部産の梅キティですもの。最高級の梅キティです。

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2004年7月3日(土)

登校やお出かけはもちろん、健診で病院へ行く時でさえ、ニコニコと「お出かけできてうれしいわ。お出かけって楽しいやんな。」と喜びの気持ちへの共感を求めるように笑いかけてくるともちゃんですが、今日は一段とご機嫌で終始笑顔を向けてくれました。から梅雨の今年は早くも夏本番、夏真っ盛り、夏娘のともちゃんの季節が始りました。

 このところ痙攣発作が少し増えてきたので、お母さんは心配していました。夜、蒸暑いのでともちゃんの眠りが浅くなって、それが原因で発作が増えているのかと思い、昨夜はエアコンを入れて寝ました。すると、よくは眠れたようですが、今度は朝から痰が少し多くなっていて、今朝はそれが気になっていました。体調管理は必須ですが、人生を楽しむともちゃんの笑顔に、心配も吹飛んでしまいます。

 今日は、ともちゃんとお母さんがインターネットで調べた兵庫県小野市の「ひまわりの丘公園」にお出かけしました。家を出発してからしばらくは休養モードに入っていたともちゃんですが、中国道から山陽道へ分岐するころから盛んに笑いかけてくれます。トンネルに入ると今回もオレンジ灯に反応してか、ギャハハハギャハハと声を出して笑っています。「本当に楽しそうやな。喜んでるなあ。」、お父さんもお母さんも心の底から楽しい気持ちになります。

 山陽道を三木小野インターチェンジで降りて、国道175号線を北へ10分位行ったところに公園はあります。この山陽道は、お父さんにとっては4年前に岡山の工場へ出張するために毎週通った懐かしい道でもあります。お母さんにとっては、「下りの三木サービスエリアでカレーが食べたい。」というところに連想が行くのですが、ともちゃんの注入の時間を考えたら、そう寄道もしていられません。

 ひまわりの丘公園に行くには、「ひまわりの塔」を目印に来て下さいとホームページに書かれていました。高速を降りて国道に入り、両親が「あれちゃうか。」、「いや、あれは携帯のアンテナ塔や。」とやり取りしている様子を聞いて、ともちゃんはヘラヘラ笑っています。「今度こそ、あれやで。」と塔に近づくと、すぐに「ひまわりの丘公園は右折」の標識が見えました。

 10時過ぎだというのに駐車場はいっぱいで、整理係の人が空いている場所を案内しています。車椅子であることを告げて、車椅子スペースに車を入れました。10台分くらい用意された車椅子スペースは、さすがにまだほとんどが空いていました。「すごい人気の公園やなあ。」と、まわりを見渡してみると、どうやら多くの人は駐車場の前にある野菜の産直販売場が目的のようでした。

 なだらかな芝生の丘の上にあるひまわりの塔まで続く、広いカラー舗装の遊歩道を散歩しました。ここの公園の特徴は、公園内にも周りにも高い樹木がなくて、とても視界が開けていることです。ちょっと大げさな言い方をすると、つるんとした丘の上から、半球以上の立体角の青空が望めます。そのために直射日光を避けるところがなくてとても暑いのですが、圧倒的な開放感が気分をリラックスさせてくれます。

 涼しい車から降りて散歩を始めた時は、ともちゃんは日差しと遊歩道の照返しに「暑いよー。」と元気のない表情で訴えていました。でも、ひまわりの塔の手前の花壇で写真撮影をする頃から、暑いけれど風が吹いたら涼しいし、やっぱりお散歩は楽しいよと笑顔を見せてくれました。残念ながらひまわりはまだ咲いてはいませんが、花壇には色とりどりの花が咲き、生垣のコクチナシがいい香りを放っています。

 ひまわりの塔の前まで行ってみました。先が細く伸びた四角錐の塔の上に長方形のテレビのような形の顔が載っていて、四角錐の側面には小野市の名産品が描かれています。この塔はかつて話題になったふるさと創生1億円基金によって建てられたと書かれてありました。「顔がテレビみたいで、おもしろいなあ。」という話しかけに、ともちゃんは笑顔で答えてくれました。

 ミルクの注入は、丘を少し下った所にある子供用の複合遊具施設の前の日よけテントの下で行いました。テントの下には家族連れがそれぞれの荷物を置いていて、家族揃って遊具で遊んでいます。そんな訳で、テント下のベンチは少し混んでいましたが、ともちゃんもその一角に陣取って、車椅子の注入用のポールにイルリガートル(ミルクを入れた袋)をかけて注入を行いました。

 つるんとして遮るものがない丘は、風がよく通ります。日陰でお父さんに抱っこされたともちゃんにも、カラッとした心地よい風が届きます。テントの外には明るい日差しがあふれ、青空が遠くまで続いていますから、暑いといっても屋外でのミルクの注入はさわやかです。ともちゃんも気持ちがいいのでしょう。それに加えて、子供の歓声が聞こえますから、ともちゃんはお父さんの腕の中でニコニコ、ケラケラ笑っていました。

 健康サンダルの凸を大きくしたというか、青竹踏みの連続というか、連続的に凸状の石を埋込んだ健康の道(道の中央は車椅子でも全くスムーズに通行可能です)を通って、丘を下りました。丘のふもとには、公園管理事務所、野菜の直販売店、小野市の物産販売店が並んでいます。ともちゃんは、お土産として手作りのイチゴの飾りのついた髪飾りゴム(残念ながらひまわりはなかったので)を買いました。中学部の卒業式におしゃれをするためです。

 帰り道、山陽道の上りの三木サービスエリアでともちゃんは水分補給をしました。ついでに両親はここで食事を摂ります。行きの道中からカレーのことを思い出してお腹が減っていたお母さんは、「レストランに入ろうか。」と言うお父さんの提案に喜んでいたのですが、ちょうどお昼時にぶつかったために、レストランは混んでいました。それで、いつも通り、スナックコーナーでの昼食になってしまいました。

 ともちゃんはここでもご機嫌で、まわりの雰囲気を感じてヘヘン、エへへへへンと一人で笑い転げては、抱っこしてくれているお父さんに同意を求めるように笑いかけていました。楽しくて仕方のない様子です。上りのカレーは超お奨めの下りのカレーとは別物だというお父さんの忠告に従って、両親はそれぞれ違う定食を急いで食べ終えました。

 お土産コーナーを見ていると、こんなに遠く離れた場所なのに、伊賀上野の忍者キティちゃんのぬいぐるみを発見しました。伊賀上野は既にともちゃんが訪れたところです。「あの時は売ってなかったから、ここで買おか。」と早速お父さんに買ってもらいました。この後も、車の中でも、ずっとともちゃんの笑顔が満開。ニコニコ、へリヘリ、ニャハハハと、ともちゃんに楽しいよ光線を照射されて、今年も夏の到来に心躍るお母さんでした。

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2004年7月18日(日)

日本道路公団のホームページから高速道路の渋滞状況をリアルタイムで見ることができます。今日もともちゃんに朝食のお粥ペーストを食べさせながら、お母さんは手元にパソコンを置いて渋滞状況を確認しました。「あかんわ。宝塚の辺、もう混んでるわ。」、ともちゃんの家では、料金所に並ぶのを避けるためにETC車載器を取付けたので、お父さんもお母さんもお出かけしたくてたまりません。

 ともちゃんの食事の進み具合が少し遅く、その間に渋滞を示す赤いラインはどんどん長くなりました。予定していた中国道方面へのお出かけは断念せざるを得ません。さらに阪和道も堺のあたりで渋滞していますから、この方面の遠出もできません。困っていたお母さんに、「道調べの再調査に行こか。」とお父さんが提案しました。

 ともちゃんは、先月、南阪奈道路の道調べと称して奈良県新庄市の葛城山麓公園に行きました。有料の南阪奈道路は確かに新庄町の葛城インターまでですが、高架の自動車専用道は無料のバイパスとなってその先の橿原市まで続き、国道165号線に繋がっています。今日は、南阪奈道路の本当の終点、橿原市までETCを使って行ってみることにしました。

 現金払いの料金ゲートに並んでいる車列を横に見て、ETCのゲートに速度を落して侵入すると、「ハイハイ、分かりましたよ。」とばかりにピッと音がして、スパッとバーが跳ね上がりました。もう少し進むとバーにぶつかるという位置で、絶妙のタイミングで勢いよく跳ね上がるので、小気味よい感じがします。

 「ともちゃん、山の中やけど、家がたくさんあるやろ。」、前回はどこにお金を入れるのかモタモタした無人料金所もETCでスイスイと通り、南阪奈道路までやってきました。いくつもの短いトンネルを越えるたびに山深くなって、最後のトンネルを抜けると、當麻町と新庄町の町並みが広がっています。ゆるやかな坂道を街に向って下って行くとこの前降りた葛城インターチェンジがありますが、そのままさらに街並みを横切って橿原まで向いました。橿原で終っているはずの道はまだ高架のまま続いています。気になりながらもとりあえず降りて、今日の最終目的地、橿原神宮を目指しました。

 一般道を南下すると、すぐに茂った樹木の間に橿原市のスポーツ施設が点在している橿原公園の敷地に入ります。この森は橿原神宮の神苑から続いているのでしょうか。神宮の駐車場を見かけましたが、途中でともちゃんが眠ってしまったので、このまま眠っていられるように公園内の道路をぐるぐる回りました。近鉄橿原神宮駅前で道なりに曲って、以前に行ったことのある橿原考古学研究所の横を通りました。

 ともちゃんが起きる様子がないので、2周した後橿原神宮の駐車場に入りました。場内整理の方に、「車椅子なのですが、車椅子駐車スペースはありますか。」と尋ねると、「もっと奥まで車で入って下さい。」と教えてくれました。広い境内の奥まで進み、深田池の前の駐車場の車椅子スペースに車を止めました。前方には自動車の御祓い用の駐車場、その向うには本殿が見えています。まだよく眠っているともちゃんが目覚めるまで、お母さんもともちゃんを抱っこしたままウトウトしました。

 ミルクの注入は深田池のほとりのベンチで行いました。ともちゃんが陣取って注入の準備を始めると、白鳥(それとも、白いあひる?)が目ざとく見つけて急いでともちゃんの下の水辺まで泳いできました。その後、亀も鯉も続々とやってきます。「ともちゃん、見てみ、ガアガアが来てるで。」、「亀さんも一生懸命泳いでるわ。」、本当に亀の泳ぎは顔を上げて平泳ぎをしているようです。「うわっ、大きな鯉もおるわ。」

 ともちゃんに直接接触することのない池の中で、ともちゃんの下まで生き物が寄って来るのはいいのですが、鳩まで大挙して飛んできたのには困りました。雀も続いてやってきます。鳥インフルエンザの季節ではなくても、アレルギー体質のともちゃんには鳥の羽毛はアレルゲンになるので、鳥は来て欲しくありません。注入をしているイルリガートルの上に糞でも落とされたら大変です。

 お母さんは鳩が来るたびに追い払っていましたが、そのうちに鳩のほうが向こう岸で餌をまいている子供の姿を見つけて、そっちへ行ってくれました。これで、安心して注入を続けることができます。ゴトンゴトンゴトンとレールの音が響いて池の左横の森の中から近鉄電車が姿を現しました。「一両、二両(二両編成)、短いデンデ(電車)やな。」とお父さん。しばらくして、次に来たのは四両編成、よく見かける編成です。これまた短い特急電車も通りました。

 「鳩も白鳥も、なんで寄って来たんやろ。ともちゃんが餌をくれると思たんやろか。ともちゃんが、気前がええいうこと知ってたんやろうか。」、ともちゃんが陣取った隣のベンチには女性が二人座っていますが、そちらには鳩も白鳥も行こうとしません。「子供は餌をくれると知ってるんやろか。子供か大人か分かるんやろか。」、「いや、(餌が入っていそうな)袋を持ってる人のところに来るんやで。」

 袋なら、ともちゃんは吸引器を入れて持運んでいる大きな袋を持っています。お出かけ道具一式を入れている大きなリュックもお母さんが背負っています。そういえば、以前TVで野生のたぬきがスーパーの袋を下げた人ばかりを襲うという話を聞いたことがあります。どうやら、お父さんの説が正しいようです。亀と鯉は白鳥につられて集まってきたように見えましたが、池を覗き込む人影に集まってきたのかもしれません。

 ミルクの注入が終りかけた頃、少し離れたところでタバコを吸いながら高校野球の話題に花を咲かせていたお年寄りの一人が「どんな病気なんですか。」とともちゃんのことを話しかけてこられました。お母さんは常々ともちゃんのような重症心身障害児のことを広く世間に知って欲しいと願っていますから、ともちゃんのことならいくらでもお話できます。けれど、タイミングが良くありません。

 屋外でのミルクの注入は、不潔にならないようにいつも気を配っています。特に、注入を始めるまでと、注入が終ってチューブを外してしまうまでは、その手順を間違えないように、一段と不潔にならないようにと緊張感を持って行っています。とてもしゃべりながらという訳にはいきません。申し訳なかったのですが、「今、取込んでいますので、すみません。」とお引取り願いました。

 その後、玉砂利を車椅子で踏みしめて、本殿にお参りしました。本殿の前では、階段があってお賽銭箱の前までは行けないので、ともちゃんの手に触れたお賽銭をお父さんが代りにビューンとお賽銭箱まで運んでくれました。ともちゃんはそれを見ながら、お母さんと一緒に拝みました。有名な橿原神宮なので、お宮参りの赤ちゃん連れを何組も見かけましたが、お母さんとともちゃんが眠っている間に結婚式の花嫁さんも来ていたそうです。

 ともちゃんの健康お守りを買おうとして、販売所を覗いてびっくりしました。なんと、日本サッカー協会の八咫烏(やたがらす)の柄の「サッカーお守り」が売られているではありませんか。橿原神宮のご神体は桓武天皇なので、東征の折、道に迷った桓武天皇を八咫烏が道案内したという神話から、八咫烏の絵柄のお守りもいくつか売られているのでした。

 ともちゃんにはちょうどいい具合に、八咫烏の形をした健康お守りがありました。太い糸で作られた足がチョロチョロチョロッと3本付いているかわいいカラスのストラップです。それで、ともちゃんには赤色のカラス、お姉ちゃんには青色のカラスと色違いで買いました。八咫烏が好きなお姉ちゃんにはいいお土産ができました。

 帰り道に南阪奈道路まで戻って来た時、今日の目的は南阪奈道路の終点を目指すことにあったんだと改めて思い、さらに続いていた道路を大阪方面とは反対側に向ってみることにしました。しかし、これは肩すかし、道はすぐ先の近鉄の線路を越えるために高架になっていただけで、線路を越えると地道になっていました。大阪方面に向きを変えてから、左手にこんもりと畝傍山がそびえていることに気が付きました。

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2004年7月25日(日)

「今年は辺り一面満開のひまわり畑を見に行こうね。」と6月のうちから、ともちゃんとお母さんは約束していました。お出かけ先調べをしている時に兵庫県南光町のホームページを見つけたからです。もうそろそろ見頃と思っていた矢先、TV各局がニュースやワイドショーで南光町の満開のひまわりを報道して、行きたい気持ちに追討ちをかけてきました。

 先週は渋滞で断念、「来週の日曜日、ともちゃんのお誕生日にはひまわりを見に行こな。帰りにはプレゼントに大きなお土産買うたげよ。」とずっと聞かされていたともちゃんは、とても楽しみにしていました。ともちゃんが体調の良い時に見せる楽しいことへの期待、周りの人への働きかけ、すごく楽しいよという意思表示の表情を見ていると、ともちゃんの脳の損傷の程度を疑ってしまいます。脳の大半に損傷を受けているなんて、「本当は何でも分かっているやんな。」、嬉しい錯覚を覚えます。

 ともちゃんは、今日も朝からとても意欲的に過ごしました。明らかに、「お父さんが休み」、「今日はお出かけ」ということを認識していて、「行こう! 行こう!」、「私、がんばって朝御飯早く食べてんねん。」とお父さんやお母さんに、笑顔と目の輝きで訴えかけています。お父さんは道路公団のホームページから渋滞情報を見ていますが、幸いなことに今日は中国自動車道に渋滞している箇所はありません。

 順調に出発すると、朝から張切っていたともちゃんは休憩モードに入ります。涼しい車内でお母さんの抱っこでボーっとして過ごします。興奮した脳をゆっくりと休めているのでしょう。ちゃんと眠ることもありますが、ウトウトするだけの場合でも疲れが癒せるようです。ニコニコとごきげんで笑いかけてくれたら、元気回復した印です。

 ETC車載器を取付けたともちゃんの車は、料金所で止ることなくスイスイと進みました。しかし、最後の料金所では、「料金支払のゲート」と「ETC兼支払のゲート」の2つのゲートしかなく、なぜか現金払いの車が「兼用ゲート」にばかり並んでいて、「支払専用ゲート」はガラ空きという状況で、閉口してしまいました。

 地道に降りて信号で止ると、周りはいつの間にか、沿道にはためく「ひまわり祭」ののぼりに従って同じ方向を目指す車が連なっています。ひまわりが満開になるこの時期、南光町では「ひまわり祭」が開催されていて、町をあげてひまわり畑を宣伝しています。一団となった車は「ひまわり祭」の会場の駐車場になっているスポーツ公園に流れていきました。

 山間の緑の中に黄色い一角が現れると気持ちが焦りますが、場内整理の方の誘導に従って、ひまわり畑に近いところに設けられている車椅子駐車スペースに車を止めました。駐車場の周りには地元の人たちによる農産物販売所や特産物販売所のテントができていて、それぞれに賑っています。駐車場には乗用車だけでなく観光バスが何台も止っていて、みんなぞろぞろとひまわり畑に向っていきます。

 さあ、ともちゃんも行くぞと張切って、お父さんはともちゃんを抱っこして、先に車から降ろした車椅子に乗せました。ともちゃんが車に乗っている時は、お母さんが靴を脱いで座席の上で立てひざをついて脚でともちゃんの椅子を作り、その中にともちゃんをすっぽりと収めています。お母さんは車を降りるのに靴を履こうとしたのですが、靴の片方が見当りません。

 座席の下や隙間、吸引器を入れた鞄の下も見ました。後部の荷台の予備の酸素ボンベの間や、運転席や助手席の回りに転がっていっていないかも調べました。でも、どこにもありません。「どこにもないわ。(自宅を出発するのに)乗込んだ時に落してきたのかもしれん。」と言うお母さんに、ともちゃんに寄添っていたお父さんが、「ホンマによう調べたか。ともちゃん、ちょっと待っててや。」と車内を覗きに来ました。

 車椅子に乗ったともちゃんは、車の前、両親の目が届くところにいたのですが、大きな声で「オオーー、オオオーーー。」と怒ったような声を出ししています。「ごめんなあ。お母ちゃんが靴なくしてん。まあええわ。かっこ悪いけど、しゃあないわ。」、覚悟を決めたお母さんが片足裸足で車を降りて、ともちゃんのところに来てなだめようとした時です。ともちゃんの左足の下、車椅子の足置き台の上になくした靴を発見しました。

 いつも踵を踏まれているので、すっかり型崩れして潰れたお母さんの靴です。「あったー。こんなところに靴があったでー。」と靴を掲げて、大声でお父さんに報告するお母さんの声を聞いて、ギャハハハハとともちゃんは大きな口を開けて大笑い。「賢いなあ、ともちゃん。『お母ちゃんの靴、ここにあるで。どこ探してんの。こっちやでー。』って大きな声で教えてくれてたんやんなあ。」

 まさか、ともちゃんが両親の会話の内容を理解して、それに応じて声を出していたとは思えません。たぶん、車椅子に乗ったのにいつも通りすぐに出発しないで、(日傘を差しているとはいえ)強い日差しの下に置去りにされたことが嫌だったのでしょう。「何もめてんの。はよ出発しようよ。お父さんはどこ行ったんや。」、あるいは、足の下に挟まっていた靴が気持ち悪かったのかもしれません。「なんか、挟まってるねん。外してや。」

 けれどこんな愉快な偶然が起こると、お母さんは楽しくなってしまいます。ともちゃんも、自分が大きな声で文句を言ったら、お母さんが来て相手をしてくれたので、嬉しくなりました。靴も見つかって、万事順調です。

 ひまわりの花は太陽に向いて咲く習性があるので、広大なひまわり畑の花はみんなそろって同じ向きに顔を向けています。それで、畑のぐるりの四辺のうち、花が前を向いている一辺のみが撮影スポットとなり、それぞれに記念の写真を撮る人、撮られる人、三脚を立てて芸術写真を狙う人という具合で混合っています。ともちゃんも人の隙間を見つけて、ひまわりに負けない笑顔で記念撮影をしました。

 ひまわり畑のあぜ道に降りたり、畑の中のひまわり迷路に入ったりできるようになっています。けれども、車椅子では危ないので、ともちゃんは四辺の道路を一回りして、ひまわりの横顔や、後姿も眺めました。暑い太陽が照りつける中、日傘の下で汗を流しながらも、車椅子を進めてもらって、にこやかにしていました。それを見ながら、ともちゃんの夏のお出かけ必需品、保冷剤を忘れていたことに気付いたお母さんでした。

 ともちゃんは、今までに、青い空、木漏れ日の緑のアーチ、淡いピンク色の満開の桜は見たことがありますが、一面の黄色を見たのは初めてです。鮮やかな黄色を見たともちゃんは、どんな風に感じたのでしょう。ともちゃんはひまわり祭のお土産として、駐車場近くの物産販売所で、自分には布で作った本物そっくりのひまわりの造花のキーホルダー、お姉ちゃんにはひまわりの種が入ったクッキーを買いました。そして、涼しい車内に戻ってミルクの注入を行いました。

 帰り、来た道を山陽道に向って戻って行くと、対向車がズラーっと渋滞していました。ともちゃんが来る時には一塊で順調に動いていた車が、もう隙間なく駐車場に並んでいるのでした。帰りの楽しみは誕生日プレゼントです。水分補給をする加西サービスエリアに大きなキティちゃんがいたら、誕生日プレゼントとしてお父さんに買ってもらいます。

 いました、いました。つるつるしたパラシュート生地でできた大きなキティちゃんがいました。ともちゃんが持っているキティちゃんの中で一番大きい部類でしょう。でも、生地が柔らかいのでしっかりと座って前を向いてくれず、くねっと前屈しています。随分迷いましたが、せっかく買うならもうちょっと考えてみようということで、今回は見送りになりました。

 「えっ、プレゼントくれへんの。」とともちゃんが心配しないように、お父さんが「気に入ったのが見つかったらいつでも買える永久不滅ポイントあげるから、大丈夫やで。」と約束してくれました。プレゼントはもう少し後になるけど、「ともちゃん、15歳の誕生日おめでとう!」、これからも、ずっと一緒に人生を楽しもうね。

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2004年7月29日(木)

 今年も、一学期はともちゃんの体調が良くなるに従って残り少なくなり、とうとう夏休みになってしまいました。毎年新しい年度が始まるたびに、お母さんは今年は前年度よりも1日でもたくさん登校するぞと仕切りなおして気負います。毎月の登校日を数えては、前年よりも多いとこっそりほくそ笑んだり、少ないと来月こそはと決意を新たにしたりしています。

 とはいえ登校するのはともちゃんですから、お母さんの思い通りにはなりません。ともちゃんの体調次第、無理は禁物。もちろん、それはお母さんも十分承知の上でのことです。今年のともちゃんの1学期の出席日数は、授業日数68日中12日。昨年の14日を下回りました。体調は去年に比べて悪いというわけではありませんが、特に7月、たまたま登校を予定していた朝にけいれん発作があったり、季節はずれの台風のおかげで痰が多かったりしたせいです。

 でも、なんといっても、今学期は修学旅行に行ったという特別なとても嬉しい成果があります。先日、ミルクの注入をしながら、お母さんも修学旅行のビデオを見せて頂きました(保護者懇談会でビデオ鑑賞をしたのですが、その日ともちゃんは休んだので)。みんなと一緒にスクールバスで新大阪駅に向い、新幹線に乗って列車の旅を楽しむビデオの中のともちゃんを見て、改めてしみじみと参加できた喜びを噛み締めました。

 1学期によく参加できた授業は、自立活動の授業です。ともちゃんのような(知的障害と身体障害の)重複障害を持つ生徒は、月曜日から木曜日までの2時間目に自立訓練ルームで訓練を行っています。ともちゃんが少し早目に登校できた日は、ちょうどその時間に当たるので、お友達と一緒に色んな姿勢をとりました。ともちゃんはまわりにお友達がいることがうれしくて、眠くて不機嫌なお友達の泣声を聞いてもニコニコと笑いかけていました。

 今年で創立9年目に入るともちゃんの養護学校は、早くも過密過大の問題に直面しています。児童・生徒数が増えたために教室数が足りなくなって、今年度からは自立訓練ルームも教室に充てたために、昨年までのランチルームにマットを敷詰めて自立訓練ルームにしています。小学部はランチルームで揃って給食を食べていたので、ともちゃんも友達と一緒にずっと以前はここでお粥ペースト弁当を食べ、その後はミルクの注入を行っていたところです。給食準備室からは、おいしそうな匂いが漂ってきます。

 そして、夏休みの登校日です。体調が整ってきたのに学校がお休みになってしまったともちゃんにとって、とてもありがたい学校生活を楽しめる絶好の機会です。7月いっぱい、小中学部と高等部で交互に設定されている登校日ですが、今年は中学部としてあった4日間の内3日間登校することができました。登校日には、プール以外にもカラオケをしたり、みんなでビデオを見たりと、毎年授業にはない活動が用意されています。今年、ともちゃんはプールと風船バレーに参加できました。

 7月23日、猛暑の今年は例年ならちょっと冷たく感じる大きなプールの水も、照りつける太陽の熱で十分に暖められています。冷たいプールが嫌いで、お湯を張った簡易型の小さなプールを好むお友達も、今年は喜んで水遊びを楽しんでいます。ともちゃんも大きいプールのプールサイドで抱っこしてもらい、足をプールにつけました。ともちゃんの場合、ミルクの時間が迫っているので、水着を着てプールに入るのは時間的に無理があります。足をつけて、友達の歓声を聞きながら水の感触を楽しむのがちょうどいいところです。

 車椅子の日傘で日陰を作り、プールサイドに敷いてもらったマットの上に陣取ったともちゃんは、先生にプールの中に足をつけてもらっても、今年は冷たいよというように顔をしかめることはありませんでした。お友達は気持ちよさそうに、それぞれの形でプール遊びを楽しんでいます。ドブーンドブーンと水の中では軽くなる大きな体を翻して、鯨のようにダイナミックに泳いでいるお友達もいます。浮輪に掴まってご機嫌のお友達もいます。照りつける日差しを反射して、みんなの動きで激しく揺れ動く水面が、キラキラと輝いています。

 ともちゃんは、お友達が水中から「ともちゃーん」と声をかけてくれても、水飛沫がかかっても、特に大きな反応をすることはなく、穏やかなホホーとした表情で水の感触に浸っていました。お母さんは、ともちゃんが体を強張らすことなくゆったりとしていたので、リラックスしていたと思っていました。けれども、時間が来て車椅子に戻ると笑顔が溢れて、先生に「プールに足をつけていたとき、本当はちょっと緊張していたやろ。」と言われて、答えるようにキャハキャハ笑い返していました。

 ミルクの注入の終る頃、みんなも11時50分に出る下校便で帰るために、終りの会が始ります。久しぶりに参加できた終りの会ですが、ちょうど日直の当番だったともちゃんは、車椅子でみんなの前に出してもらって、ニコニコ笑っていました。会の最後、2日後が誕生日のともちゃんのために、みんなが誕生日の歌を歌って祝ってくれました。ともちゃんのクラスでは7月生まれのお友達が多くて、前回の登校日もWくんのお祝いをしました。

 7月25日はともちゃんの誕生日。ともちゃんが学校でプールに足をつけたことを聞いたお姉ちゃんからのプレゼントは、キティちゃんのバスタオル。次回のプールのときに使いたいです。

 7月27日、今日は体育館で風船バレーをしました。一抱えもある大きな風船をボールにしたバレーボールです。ともちゃんが到着した時、対2年生戦の第2セットが始まるところでした。そのままともちゃんもコートの中に入れてもらいました。選手は出席者全員で、大体10対10くらいですが人数に差があるかもしれません。でも、お構いなしです。ルールは一応バレーボールに準じていますが、ボールが繋がって相手のコートに返すことを一番にして、みんなで楽しみます。

 風船の動きを追って、一生懸命にタイミングを合せたのに、空振りしてしまったお友達、悠然と構えていて先生の「来たで。」の一声でエイッとばかりにうまくボールを打つお友達、様々に頑張っています。車椅子のお友達も、フワッと目の前にボールを回してもらって(手が思うように動かせないので)先生が打上げます。ともちゃんは、最初ボールのよく来るネットの前にいたのですが、元気なお友達がぶつかりそうになり、先生にガードしてもらいました。それからは、安全な審判の横あたり、つまりコートの端っこに移動しました。

 近くで、ビーっと審判のホイッスルが鳴って、ともちゃんはびっくりしましたが、その後笑っていました。味方のコートに入って来た風船を一度ボンと突いて減速させて、ともちゃんの胸元に落してもらいました。ともちゃんはぶつかって来た大きな風船にびっくりして、キョトンとしていますが、風船なので当っても痛くはありません。白熱した試合が続きましたが、残念ながらこのセットも2年生の勝ち。3年生は1:2で負けてしまいました。

 1年生対決(1年生は人数が多いので、2チームに分かれました)で負けたチームとの3位決定戦の間にミルクの注入をしたともちゃんは、今日も終りの会に参加しました。今日はHくんの誕生日(本当に7月生まれが多いクラスです)なので、誕生日の歌を歌ってお祝いしました。歌声を聞いて、ともちゃんは今日もニコニコ笑っていますが、今日はともちゃんの誕生日とは違ってHくんの誕生日だということが分っているかな。

 7月29日、一週間前から体調が絶好調で、登校、通院、お出かけ、登校、登校と隔日で活動してきたともちゃんも、ちょっと疲れが出てきたようです。体力のないともちゃんにとって、活動は隔日であることが必須なのですが、それも長く続くと疲れてきます。一週間も続いたということは喜ばしいことなのです。今日は朝食を食べ終るのが少し遅くなったので、いつもよりも学校に到着するのが遅くなりました。

 今日もプール活動なので、お姉ちゃんがプレゼントしてくれた新しいバスタオルを一応持参して行ったのですが、少しだけプールサイドで見学して、ミルクの注入に向かいました。今日の注入は修学旅行2日目のビデオを見せてもらいながら行いました。ともちゃんは行かなかった「おもちゃ王国」のキャラクターのお出迎えや乗物の様子もしっかりとチェックしましたが、ともちゃんが喜んだのは2日目の夜のカラオケ大会。みんなで踊っている様子を見て、ギャハハハと大笑いしていました。

 夏休みの登校日は、ともちゃんにとってスクールバスで下校できる滅多にないチャンスでもあります。下校便の出発時間がともちゃんの帰宅時間と合うので、一年ぶりに、3日間ともスクールバスに乗せてもらいました。元気に登校して、プールや風船バレーの活動をして、ビデオを見ながらミルクの注入をして、終りの会で日直もして、誕生日も祝ってもらって、スクールバスで下校する、とても充実した登校日でした。明日からの長い夏休み、まずはちょっと疲れた体を休めましょう。

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